2月29日(木)

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昨夜はホテルの最寄りのコンビニ前で駅前まで向かうタクシーをアプリで呼び、その到着を待っているうちに日付が変わった。深夜の割り増し料金のタクシー代は痛かったけれど、心の痛みに比べたらなんてことなかった。 本当は高級クルーズ船で私の誕生日を迎えたかったらしいけれど、仕事をそんなに休むのは難しいのでリゾートホテルへの宿泊になった。もしクルーズ船に乗っていたら下りたくても下りられなかったから、今回ばかりは融通がきかない仕事に感謝だ。 駅前の昭和からありそうなカラオケボックスで放心状態のまま一曲も歌わず一睡もせず頼んだワンドリンクすら一滴も飲まずに始発を待ち帰宅した。 最悪過ぎる誕生日。お酒を浴びるように飲んでいたらいつの間にか寝てしまったようで、また夜になっていた。何時かはわからない。体調が悪過ぎてスマホを見る気になれないし、部屋の時計を見るにも起き上がらないといけなくてとても無理だった。 普段は家でだって泥酔なんかしない。そもそも一人でお酒を飲まない。二日酔いなんかしたりして貴重な時間を無駄にしたくはないし、泥酔している人を見るとみっともないと思う。 ───そう、梨衣乃のような・・・。 梨衣乃とは大学のダンスサークルで知り合った。何も考えず自分の気持ちのままに発言し行動する彼女の奔放な性格を羨ましいと思っていた自分が吐き気がするほど憎い・・・いや、吐き気はリアルにしている。 ───明日仕事だし、二日酔い予防して寝なくちゃ、や、その前にゴミ散乱した部屋片付けなきゃ、Gが出たら嫌だし・・・あー失恋休暇ほしいなぁ。 起き上がらなきゃ・・・と思うのに重力が100倍になったかのように重くて動けず、そのまま意識を失った。 このあまりにも惨めな誕生日が、私がこの世界で最後に過ごした日だった。
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