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私が住むマンションの前に着くと風凛くんが苦笑いしながら『これ。冷めちゃったな。今日も結局飲めなかった。』とおしるこの缶を渡してくれる。『え、いいよ。風凛くんが持ってって。』と返すと彼は寂しげな表情になり『俺はさ・・・』と話し始めた。
「叶未と一緒にいたい。むしろ離れることが不自然だと思う。でも叶未があっちに帰りたいって言うならその気持ちを尊重したい。」
「風凛くん・・・。」
私は『帰りたい』なんて1ミリも思っていない。『帰らなければいけない』と思っているのだ。きっとそれが正解だから。いつだって自分の気持ちより、正解だと思う方を選んで生きてきた。
小さい頃駄菓子屋さんに行った時、お母さんに『好きなお菓子を一人一つだけ買っていいよ。』と言われ、妹や弟はチョコレートやスナック菓子を買ってもらっていたが、私はスルメイカを選んだ。本当は駄菓子が食べたかったけれど、そのお店にある中でそれが一番体にいい食べ物だと思ったからだ。
高校生の時の進路選択でも本当はダンス関連の専門学校に行きたかったけれど、大学で経営や法学、語学などを学んだ方が将来の為にいいのだと思い大学に進学した。
髪型もメイクも服も人に好印象を持ってもらえるものであることを購入基準にした。下着だって私ではない私のように自分の好みなんてなく、シンプルな形で少し花柄が入っているくらいのものが一番無難だと思って買っていた。
───風凛くんは私を求めてくれている。同じように私も彼を求めている。私の気持ち次第なんだ・・・。
別の世界で生きていくなんておかしいと考える理性と、心から好きな人と一緒に生きていきたいと思う本能がせめぎ合っていて答えは出そうになかった。
けれど、私が答えを出す前に世界は動いていくのだった。
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