塵も積もれば山となる

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塵も積もれば山となる

 綺麗に畳んだ洗濯物を手に息子の部屋に入った明子は呆然とした。息子の部屋中にあふれた大阪近鉄バッファローズのグッズにである。 「なんやねん、ノックせえや」  高校2年生の息子がエラそうに言ってくる。 「……アンタ、いつのまにこんなに集めたん……」  息子は小学生の頃から、オリックス・バッファローズの『B』のロゴ入りキャップではなく近鉄バッファローズのバッファローマークのキャップを被っていた。父親が昔近鉄の大ファンだった影響だ。明子自身も昭和世代としてはバッファローズは近鉄、というイメージが強い。  大阪近鉄バッファローズはオリックス・ブルーウェーブに吸収合併され現在はオリックス・バッファローズとなったのだが、そもそもオリックス自体も明子からすれば、元阪急ブレーブス、つまり阪急だったという記憶が消えない。    自分は野球部でもなんでもないくせに、息子は野球のグッズが大好きだ。いや、近鉄バッファローズのあのバッファローのロゴが好きなのだと思う。現にこの部屋にあるのも旧大阪近鉄バッファローズのバッファローロゴ入りのものばかり。 「最近近鉄バッファローズの復刻ロゴモデルのニューエラキャップが発売されて今メチャメチャ熱いねん!」 「いや、知らんけど。アンタはホンマに無駄遣いばっかりして……」  呆れる明子に息子は口を尖らせる。 「好きなもん買うのは無駄遣いちゃう」  確かに。しかしそれならば…… 「もうちょっと綺麗に飾りぃや。ほとんどゴミ屋敷やんか」  そう。好きなものならもう少し敬意を表してはどうなのか。とにかく積み上げているだけのようなこの惨状では、バッファローたちも浮かばれまい。 「最初はちゃんと飾っとってんけど、数が増えてきていつの間にかこんなんなってもうた。塵も積もれば山となる言うやつや」  息子の言葉に明子は、ん?となった。   「アンタなあ、塵も積もれば山となるは、些細なことでも時間を掛けて継続してたら仕舞には大きな結果に結びつくこともあるっていう意味やで。コツコツと地道に努力せえゆうようなことや」 「ほんだらコツコツと近鉄グッズ集めたらエエ事あるってこと?」  むむむ、と明子は考え込んだ。 「まあ、そうやな。いずれは博物館みたいにしてみんなに見て貰ったりできるかもな……せやから綺麗に保存したれゆうてんねん!」  そうだ。論点がズレてきていたが、そもそもはこのブタ小屋のような有様を何とかしろという話なのだ。 「だって部屋が狭いねんもん。あ!洗濯もんで思い出した。明日体育やのに体操服ないねん。これ大急ぎで洗濯して!」  そういって息子が差し出したのはいつ着たのかわからないくしゃくしゃで悪臭を放っている体操服が数枚。 「だましだまし着とってんけど限界やから洗濯してー 大至急!」  明子は自分の中に、子供達に対する日々の些細な塵(ストレス)が積み上がって、もはや山となっていることにたった今気がついた。 「……まさか他にも洗濯物ため込んでるんちゃうやろな……」  慌てて押し入れを勢いよく開けると……  明子に向かって雪崩のように押し寄せてきたのは、バッファローの群れ、いや大量の近鉄グッズ達。 「……だから……部屋が狭すぎんねんて……」  そっぽを向いてそうボソボソと言い訳する息子に、明子の中の山はついに大噴火し、すべてを破壊するべく突き進んだのであった。
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