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定刻の二十時。
ミカは、友人らのアカウントから投稿された動画のチェックを始める。
六秒ほどの短い動画が次々とリールに流れてくるSNS。流行りのダンスをクラスメイト同士で踊ったものや、部活動のあるあるを寸劇でまとめたもの。動画の内容は多種多様だが、比較的再生数が多いものを注視していくと、そこからはある種の傾向のようなものが浮かび上がってくる。投稿されたものの中にミカの姿は一瞬たりとも映っていない。だが、これらの動画はすべて、ミカが撮影し、編集にも携わったものだった。
日課となっているこの確認作業は、レンズを構えた責任感から生じて行っていたことであったが、今ではミカの日々の楽しみになっていた。
動画を見るのは好きだ。自らの手でそれを形作っていくのは、殊更に楽しい。
良い表情で笑う友人を画角に収められた時は「よっしゃ!」と思うし、うまく編集できた動画の閲覧数が伸びていった時には、誇らしさも感じる。
SNSで「バズる」動画を作るには、ただ漫然とカメラを構えているだけではいけない。毎日新しくなっていく流行を追い、データを分析し、ミームを取り込み、全く同じものにならないようにひとつまみのスパイスを加えながら、それでいて被写体の魅力を全力で引き出す必要がある。
ミカの周りには、幸いにしてそういった工夫を動画に加えるために必要な機材が揃っていた。動画を学んで分析することには元々興味があったから、ミカ自身も試行錯誤の労力を惜しまなかった。ショート動画も含めると、作った数は相当なものになる。ミカの作った動画は、ある時期からSNS上で多くの人の目に触れるようになった。動画の右下にはミカが作成したことを示すロゴを必ず付けるようにしていたから、ミカに動画編集の技術があることはいつの間にか広く知られていった。そうしてミカは、友人たちから「バズる」動画の撮影と編集を頼まれるようになった。
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