カメラの向こうには

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 朝の八時。  神村京子は、通学で使う電車の中でスマートフォンを眺めていた。  昨日SNSにアップロードした写真は、あまり閲覧数が伸びていない。  まぁそれもそうかな、と京子はひとり納得する。そもそも仲間内で共有できれば、という気持ちで投稿したものだ。みんなちょっと微妙な表情をしているし、バズるような面白い要素もないから、当然だと感じていた。  昨日撮影したこの写真は、SNS上で閲覧する限りには何の変哲もないが、これを投稿できるようになるまでにはひと悶着があった。思いがけず「心霊写真」のようなものが撮れてしまったからだ。シャッターを切る直前に奇妙な出来事があったせいもあり、一緒に写った友人の史帆がひどく怖がってしまっていた。だから京子は、自分の手でわざわざ写真を加工を施し、あの奇妙な影を取り除いた後の写真をSNSに投稿したのだ。あれから怯えていた史帆が、異常を取り除いたこの写真を見て、少しでも安心してくれるなら苦労も報われると思った。  いつもなら、投稿する動画や画像の加工はミカに丸投げしている。だが、昨日は何故かどんなに頼んでも受け付けてくれなかった。やむを得ず、京子は使い慣れない海外製の画像加工アプリを用いて、あの影を写真から消去した。  プシュ、という音がして電車の扉が開く。乗車してきた人の中に見知った顔を見つけ、小さく手を掲げる。同じように片手を掲げた友人の久美が、京子のすぐ隣に寄ってきた。ゆっくりと動き出した電車の中で、囁くように会話をする。 「おはよ。ね、昨日の写真どうしたの? 除霊した?」 「なに、除霊って。もう消したよ、アプリ使って」 「えー、大丈夫なの、それ。まだ呪われてたりして。呪物でしょ」 「もうやめなよ、その悪ノリ。史帆が怖がっちゃうじゃん。ガチ泣きだったよ、あの人」 「いやぁ、ごめんごめん。でも気になるんだもん。京子だって聴いたでしょ、あの声」  久美の言う「あの声」とは、昨日、写真を撮る直前に聴こえてきたものだ。  放課後の教室。そこには京子を含めて四人の生徒しかいなかった。なのに、確かに知らない人物の声が、どこからか聴こえてきた。  ところどころが不明瞭で、耳元から囁かれているような、おぞましい声。   わたしも……そっちがわに、ぃぃ……  誰かの空耳ならよかったのだが、その時は四人が四人とも間違いなく聴いてしまっていた。引き攣った表情を浮かべた瞬間にフラッシュは焚かれ、その写真が残った。怪訝な顔をしている四人の後ろ。纏わりつくように佇む黒い影が、そこに写りこんでいた。  心霊系の話が苦手な史帆は、その写真を見てひどく怯えてしまっていた。あの時、撮影用のアプリを起動した京子は、責任を感じてこの黒い影をどうにかしようという考えに至ったのだ。 「私、霊とかあんま信じてないから。あの音だって、スマホが誤作動起こして鳴っただけなんじゃないの?」 「うわぁ、超クール。さすがだね」 「霊だなんだよりも、その後の写真の加工の方がよっぽど大変だったよ。こんな時に限って、ミカは全然言う事聞いてくれないし。慣れないアプリ使って、ひとつひとつ手作業でさ……」 「あ、ミカといえば」  そう言って久美は、自分のスマートフォンを取り出した。 「今、やばいことになってるらしいよ」  画面には、現在更新されたばかりだと思われるネットニュースの記事が並んでいた。
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