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お腹が空いているのをなんとかごまかし、ここまで作業をしていたが、そろそろ限界が来ている。
「よっしゃ、あと一列やれば終わりだ」と佐々木君は言った。
正直、同じクラスになりたての時は佐々木君のことが苦手だった。クラスの大人しいグループに属している私とは違って、佐々木君は常にクラスの真ん中にいる人だったからだ。明るすぎる人といると疲れる時がある。佐々木君に罪はなにもないのだけど。
しかし、2学期になり同じ図書委員になり話をするうちに、佐々木君が好きな作家と私が好きな作家が一緒だったこともあり、話すようになった。佐々木君は私のような女子にも一軍グループに属している女子にも同じように話してくれた。
「益田さん」
「何?」
「もし、良かったらなんだけど、帰りさ、おれが知っている喫茶店行かない?そこにすごくおいしいホットケーキがあるんだよ」
ホットケーキ、私も好きだ。でもここで食べ物の話はしないでほしい。ますますお腹が空いてくる。
「あのさ、クリームとか果物とか色々なものが乗ってるパンケーキよりもおれはバターとメープルシロップのホットケーキが好きなんだよな。やっぱシンプルなやついいよな」
のどに違和感を感じてくる。これは涙が出てくる合図だ。何とかしないと。食べ物から話を変えればいいのかもしれない。でも、何かを話したら涙が出てきそうだ。
「そもそもパンケーキとホットケーキって何が違うんだろうな。益田さん知ってる?」
佐々木君がこちらを振り返った。
私は下を向いた。
その瞬間、涙がポトリと床に落ちた。
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