幸せの前に

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幸せの前に

「腹減ったなあ」  目の前にいる佐々木君は本の整理をしながら、そう言ってため息をついた。 「益田さんも腹、空いてない?」 「私はあまり空いてないかな」  私は笑いながらそう答えた。  うそだ、さっきからお腹が空いている。内心、私はあせっていた。私は、お腹が空くことが怖かった。 「まさかさ、一緒の当番だったやつがさ、2人そろって風邪ひいたとか運がないよな、仕方ないけど」  佐々木君と私は図書委員だ。今日は図書整理の日で4人いれば、もう帰れているはずだが、2人が休んだため、作業に時間がかかってしまった。 「この高校の図書室、本が多いよな。でもおれの好きな作家いないんだよな」  私はそうだね、と言いながら別のことを考えていた。 ―こんなことならもっとお菓子持ってくるんだった。  別にお菓子が特別好きというわけではない。ただ空腹になりたくないだけだ。  そうではないとあの時を思い出してしまうから。
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