Hungry for……

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Hungry for……

 その週末、リュックに特別な想いを潜ませて、俺は圭人さんのアパートを訪ねた。玄関でキスをして、リビングのソファで寄り添って、コーヒーとカフェオレを飲む。 「あの……圭人さん」 「うん?」  いつものキスのおねだりだと思ったのか、彼はローテーブルの上の書類を押し退けてマグを置く。俺は、リュックの底から傾げないよう大切に持ってきた赤い箱を取り出した。 「これ……受け取ってくれる?」 「えっ」  全く予想していなかったらしく、圭人さんは一瞬動きを止めてから、はにかむような笑顔になった。 「ありがとう。まさか、この年でチョコをもらえるとはなぁ」 「チョコとは、ちょっと違うんだ」 「へぇ、なんだろう。開けるよ?」  箱の中からバナナ入りチョコバウムクーヘンが現れると、圭人さんは目を丸くした。 「凄いな、翼の手作りかい?」 「うん。調理師目指してる同級生に教えてもらったんだ。甘いけど、食べてくれる?」 「もちろんだよ。嬉しいなぁ」  圭人さんは俺を抱き寄せて、優しく頰や耳を撫でながら何度も唇をくれた。頭の芯をトロトロに変える甘い甘い蜂蜜のようなキス。  それから、俺たちは2人でバウムクーヘンを食べた。彼は俺にも食べさせたり、俺はキスをねだったりしながら。甘過ぎると思ったバウムクーヘンは、彼がいれた飲み物と程良く合っていて、結局ペロリと完食した。 「調理師の道に進む子もいるんだね。翼は、もう進学先を決めたのかい?」 「ううん……まだ」 「そうか。僕に縛られず、君の進みたい道を選ぶんだよ」  ああ……やっぱり、圭人さんはそう言うんだ。もしも俺が遠く離れても、大人だから我慢できるの? 2週間会えないだけで、俺はこんなにあなたに飢えているのに。 「覚えていて、翼。君がどこへ行っても、僕は会いに行く。僕の愛は変わらない」  言葉に詰まり、俯いた。ただ涙が溢れる。そんな俺を、圭人さんは腕の中に閉じ込めると、いつになくきつく抱き締めた。 【了】
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