女神様のお部屋

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「レオノラ、早急にもう1つ。このダンジョンに魔物は?」 「ちょっと、私の家をダンジョンなんて呼ばないで!」  ドッ!カタカタがさらに大きくなる。通路全体が揺れているような音と振動。 「ウケてる場合じゃない。コイツら、魔物だよな」 「可能性の話だけど」 「早く」 「さっき言った女神の力、もしかしたらそれが漏れてるかも」 「漏れてると…どうなる?」 「木箱がミミックになったり…ならなかったり?」  答え合わせと言わんばかりに小さな木箱が1つ、フィアの顔の高さにまで跳ね上がり襲いかかってきた。蓋を大きく開けた様は、獣が捕食を行うときのそれと酷似している。しかし、牙が生えているわけでもない。フィアは素手で掴むと力づくで顎にあたる部分を反対側に思い切り開いて、そのまま割り壊した。 「こうなりたいなら、かかってこい」  ミミックには目も耳も無い。生物のように振る舞ってはいるが、よく分からない存在だ。脅したところで逆効果かもしれない。だからこれは賭けだった。 「どうだ?」  ダメ押しで掲げる。ミミックだったものから光が抜け出てレオノラに入っていく。 「なるほど、死ぬと漏れなく女神に食われるおまけつきか」  それがトドメになった。小さいミミックたちは跳び上がって、我先にと道の先へ走り去って行った。後にはミミック化していない木箱がポツポツと残っている程度で、もう木箱を掻き分ける必要もなさそうだった。 「レオノラの家、もう立派なダンジョンだな」  足元の装飾つき木箱を拾い上げながら、フィアはレオノラを見る。顔を真っ赤にした彼女は怒ったように、フィアを残して先に行ってしまうのだった。  そこからはかなり楽になった。通路はすっからかんで、たまに落ちている豪華な木箱からは魔石が手に入った。ポケットが埋まってきた頃合いでマジックバッグが手に入ったのは最高の幸運だった。腰から下げるタイプの革のバッグには見た目を無視した量の魔石が呑み込まれていく。手を入れればちゃんと感触がある。不思議な感覚だ。  壁際に積まれた中から、大き目の豪華な木箱を探し出して慎重に引っ張り出すと、そのサイズに見合った収穫が得られた。大きめのダガーが2本にちょうど良いサイズの手斧が1つ。鞭に投擲用ナイフ。最高だ、これなら戦える。ダガーはポケットに収納して、手斧は跳びかかってきた挑戦的な中型ミミックの頭に叩き込む。叩き込んだと思ったら、そのまま両断してしまった。 「いや、切れ味おかしいだろ!?」  喜びと戸惑いの混じった声を上げてしまった。 「ドワーフって種族だったかしら。今はいないの?」  レオノラが首をかしげるが、フィアには馴染みのない種族だった。おとぎ話や神話で聞いたことがあるかもしれない。レオノラの言うことがすべて真実だとして、彼女が知っている時代からはずいぶんと時間が進んでしまっているのかもしれない。そんなことを考えていると、目の前の残骸から光が抜けてレオノラへ入っていく。 「それ、さっきもあったな。まさかレオノラ、ミミックの魂でも喰ってるのか…?」  命や魂を喰う魔物や呪具は存在する。王の命を狙う貴族が手を出したという噂が流れて調査に出たこともあった。 「そんなわけないじゃない!戻ってきてるのよ!女神の力が!!」 「なるほど?力が戻った女神レオノラ様には何が出来るようになったんでしょうか」  少なくとも、転送がもう1度使えるかどうかくらいは探っておかなければならない。フィアはどこまでも冷静に仕事をしていた。仲良くなるのも、探るのも、すべて仕事なのだった。
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