女神様のお部屋

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「そもそもなんだけど」  フィアは装飾木箱の探索しながら、時々襲ってくる命しらずなミミックを薪割りでもするように両断していた。だから、レオノラの話に一瞬、不思議な顔をする。 「さっきの話よ。女神の力で何が出来るかっていう話。私、女神の力で具体的に何かしたことって、あんまり無いのよね。フィアのことを調べたのと、ここにワープしてきたのの2つだけ。だから、フィアに何が出来るんだって聞かれてからずっと考えてて」  レオノラは生まれて初めて、力というものを意識していた。神域で世界を創る以外のことをしてこなかったから、当然と言えば当然である。 「それじゃレオノラ様には、この先に逃げていったミミックたちをまとめて焼き払っていただきましょうかね」  挑発するフィアはもちろん、そんなことは期待していない。ただ、あの量に囲まれるのはさすがに厄介だ。逆ギレして団結して襲ってくるかもしれない。おそらくまもなく接敵する。そんな予感があった。レオノラは軽口を返すでもなく、黙って何ごとかを考えている様子だった。  フィアの思った通り、ほどなくして通路は切れ、開けた場所が見えてきた。問題はその広間だった。中心に小屋くらいの大きさの木箱が鎮座しているのが遠目に見えた。大きすぎて、それが木箱であるとはなかなか思えなかった。加えて、その周りに逃げていったミミックが集結している。襲いかかってくる様子は無いので、あの巨大なヤツもミミックなんだろう。さすがにアレは自分の手には負えない。家屋解体の専門家でもなければ厳しい。自然とレオノラへ目が行く。レオノラはその視線を受けて、頷いた。  巨大ミミックが起きるかどうかのギリギリの距離。フィアが見張りをする背後で、作戦は始まった。 「スティン・ザウル、起動」  レオノラの手に握られた石は短く唸るような音を立てて、小さな光のパネルを展開する。神の言語で書かれた文字列。その中から火炎という文字を見つけ出す。力の量はギリギリ足りている。それはすなわち、失敗が許されないということでもあった。威力の保証はもちろん無い。使ったことすら無いのだ。それを説明すると、フィアはこともなげに笑った。 「ダメなら通路に逃げ込んで地道に倒す。通路の壁にあった木箱を崩してバリケードにすればミミックが殺到することは無い。コイツがあれば、ほとんど一撃で倒せる。時間はかかるけど問題無いさ」  現実的なセカンドプランは、レオノラの背中を押すには十分だった。 「フィア、いける」 「よし、やろう」  短く言葉を交わして、立ち位置を交換する。 「目標、前方の空間に存在する全てのミミック。威力、射程、自動調整」  スティン・ザウルを握る手の周囲に展開したパネルをレオノラが操作していく。光を帯びた神器を掲げたレオノラの後ろ姿が、フィアに幼い頃に読んでもらった神話の絵本を思い出させた。女神なのかもしれない。そう思わせた。 「すべてを、燃やし尽くしなさい」  レオノラは静かに告げた。世界への命令は速やかに実行される。スティン・ザウルが光ると、広間には炎が溢れた。美しくすらあった。蒼い炎が無駄に広がることもなく、ミミックが群れていた部分だけを正確に塗り潰し、そして消えていく。跡には何も残らなかった。焦げ跡すら無かった。ミミックたちが遺した女神の力がすべてレオノラに吸い込まれて、それで終わりだった。
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