女神様のお部屋

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 今日も捧げ物が届きます。  その日、部屋に届いたのは少し大き目の木箱でした。ボロボロで粗末な木材で作られた木箱。嫌な予感がしました。開けてはならない。女神の直感がそう囁きます。しかし開けないわけにはいきませんでした。ギィィ。軋む音が細く響きます。開け放たれた箱の中には―痩せ細った少女がいました。声にならない悲鳴が空間に満ちました。  女神は必死に神器を探しました。もうこの世界はだめだ。放棄しなければ。神器はどこだ。女神は部屋中に溢れかえる木箱を掻き分けながら神器を探します。そして、やっとのことで発見しました。表面がひび割れた神器が恨めしそうに木箱の間に挟まっていました。やっとのことで掴み上げると、彼女は無我夢中で神器に力を込めました。それが良くありませんでした。 バキンッ  神器は女神の力に耐えきれずに割れてしまったのです。破片は部屋中に飛散しました。その瞬間、鈴の音と民の声が響き始めます。女神はどうしたら良いか分かりません。近くに落ちた神器の欠片を無意識のうちに拾いあげ、握り締めました。手の平から血が流れます。落ちた涙と混ざって赤い色がぼやけました。澄んだ空気が淀み、真っ白だったはずの部屋は黒く染まっていきます。その異変の中心には、 少女の亡骸がありました。ことさら大きい神器の破片が胸の上に乗っています。欠片が少女の胸に沈んでいきます。部屋を染めた黒い瘴気も少女に向かって渦巻いていきます。鈴の音も、民の怨嗟も、欲望の祈りも、すべてが少女に向かって流れ込んでいきます。レオノラは、ただ呆然と見ていることしかできませんでした。腰は抜け、髪も顔もぐしゃぐしゃです。声を上げることもできません。 「まだそこにいたの?」  どれくらいの時間が経ったのか。唐突に声がしました。レオノラが顔を上げると、そこには、自分と同じ顔をした女が立っていました。神の力を感じます。 「ここは私が貰うから。あなたは出ていってくれる?」  見下すような冷たい目。レオノラはもう女神ではありませんでした。力を吸い取られてしまっていたのです。 「私はモルク。私がこの世界をいただくわ」  女神モルクが指揮者のように優雅に振るうと、レオノラがへたり込んでいる場所が音を立ててひび割れていきます。 「あなたはもう要らないの」  優しく微笑む自分の顔。自分の声が何か言っています。理解できません。 「手始めにこの神域を世界にぶつけて、くっつけてみようと思うの」  大きな衝撃。ひどい揺れが部屋を震わせます。 「じゃあね」  にっこりと笑うモルク。レオノラは割れた空間の穴からどこかに落とされてしまいました。叫び声はもう聞こえません。  広くて真っ暗い部屋の真ん中に女性が1人。整った顔立ちに銀の髪。紅い瞳に黒い衣。彼女こそが女神様。今まさに世界を奪おうとしているところなのです。
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