物故者

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「佐藤がいいんじゃねえか?」 男子生徒の一人が、笑いながら私の名を口にした。 中学校での出来事。クラスの学級委員の選出である。 書記が私の苗字を、黒板に書いた。 ほかにも五名ほど候補が上がり、六名で学級委員の座を争うことになった。 内向的で何事も受身だった私は、これまで学級委員の候補に上がることなど一度もなかった。 「佐藤が学級委員になったら、おもしれえな」 他の男子生徒が、私を嘲笑するようにそう言った。 男子生徒は単に、選挙に意外性を求めただけなのかもしれない。 奇しくも私に多くの票が入り、学級委員に選ばれてしまった。 お手なみ拝見、というところだろうか。 女子生徒・Mは、この結果が気に入らなかったのだろう。 「あなたが学級委員なんて、私は絶対に認めないから!」と言った。 そして、黒板にある私の名を消した。 私は、人前に出てリーダーシップをとるタイプではない。 しかしMがなぜ、そこまで私のことを否定をするのか皆目(かいもく)わからなかった。 この一件に限らず、Mの発言力は圧倒的に強かった。 たいがいの女子生徒は、Mの言いなりになった。 けれど内心は、どう思っていたのかは不明である。 私も尋ねる気はなかった。
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