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先ずは瞳を開きおもむろに身を起こす。
周囲の人間が首を傾げながら、裸の僕を眺めています。異世界転生者が何故か一糸纏わぬ姿である事を不思議がっているようです。
何ということはありません。寒くて寒くて、いつもより熱いお風呂を入れ、ワッショイと飛び込んだらヒートショックで昏倒しました、多分溺死。その状態のまま忌まわしきこの世界に堕とされました。
二徹、独身、仕方ないね。中途採用とはいえ、研修が済んでから一週間で死んだので、弊社における過労死RTAのレコードも大幅に更新したものと思われます。
さて周囲の人間が全裸の僕に対して軒並み首を傾げているこの状況も、もはや親の顔より見慣れました。
颯爽と立ち上がり右斜め後方、端から少し突き出た壁の扉側に真っ直ぐ歩いて行きます。
「えっ、ぁちょっ…」
神官っぽい人が僕を呼び止めようとしてますが無視です。一度会話してしまうと延々と状況説明が入りますので絶対に返事をしてはいけません。
「………ぅわぁ」
モブ達からどよめきが起こりました。
僕が壁に向かって尻を擦りはじめたからですね。
神官が慌てて止めるよう言ってきますがここも無視。モブ達がドン引きしながらも僕を壁から引き剥がそうとこちらに向かってきます。
触れられてしまったら再走決定。舌を噛んでリセットです。
「ふんふんふんふんふん…」
尻を激しく上下し壁に擦り付けます。
間に合わないかな、と少し焦りましたが視界が急激にブレはじめたので一安心。
身体がガクガクと震え始め、僕が壁の中に吸い込まれました。湧き上がる悲鳴を後方に置き去りあっという間に城の外です。
壁や床に対して、身体を擦り付けると抜けられるというこの現象は、剣と魔法に溢れかえったこのファンタジー世界において、僕が最初に見付けた『粗』です。
テレビゲームなどでいう、いわゆる『壁抜けバグ』というもの。他でも同様の現象は確認出来ますが、こと城の中においては、あそこの壁に対して尻で行うのが早くて安定します。
通常ではこのまま城の草むらに着地しますが、体感で10秒数えたところで一度身体を大きく開き、元の体勢に戻ることで、更に地面をすり抜ける事が出来ます。
全裸のままダンジョン突入。攻略スタートです。
さて、この『壁抜けバグ』ですが、地面に潜行した後も5秒に一度同様の動きを繰り返す事により無限に潜ることが可能で、また尻の角度を調整することでダンジョン内の任意の階層に到着出来ます。
目的の階層まで3分弱。
この間にレギュレーション等を説明させて戴きます。
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