忘却の南柯の夢、東京タワーに馳せる

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 すると、ドアの横に長瀬が立っていた。  長瀬が女を見る。  「大丈夫か? 佐江(さえ)、大分疲れたみたいだな」  長瀬が()()と呼び捨てした。  俺の心は疼いた。    長瀬が女を支えるように腰に手を添えた。  女が長瀬の腕に体重を乗せて答える。  「大丈夫、そんなに心配しないで。あなたが心労で倒れてしまうわ」  長瀬と女は見つめ合う。  そして俺は思い知る。  ――女が弱さを見せ、助けを求めるのは長瀬だけで、そこに俺や父さんはいない。  ――あの日から、俺たちは別々の道を生きているんだ。    俺は、2人が支え合って生きている姿に苦しくなって、いたたまれず、長瀬に言う。  「その(ひと)、俺の記憶から消した(ひと)だから。俺には無関係な(ひと)だ。もう会わないと思う。長瀬さんその(ひと)をよろしく」  「ちょっと、(さとし)さん。君は佐江がどんな状況か分かっているのか? そんな態度したら後悔するぞ。昔色々あったかもしれないが、君のお母さんじゃないか!」  「いいの。亨、やめて。私が全部悪かったのよ」  女が()と呼び捨てにする声を聞きながら、俺は2人に背を向けて歩き出した。  
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