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思惑
「候補はこちらの三軒です」
提案された物件を眺めて1番最初に手に取った都内の住宅街の一軒家に決めた。
都内での仕事が殆どと言うのもあるが、あまり目立つ場所ではなく、普通の会社員達が多く住む住宅街が1番遥には落ち着くだろうと考えたからだ。
裏手には少し大きめの庭があるのもいいし、浴室には露天風呂が併設されていて住み心地も良さそうで高台に立つこの家からの景色もなかなか良さそうだ。
「ここだな、この物件を早めに用意してくれ」
平野にタブレットを手渡して確認させた後、今日のスケジュールを確認する。
最初は本人を確認するためだけに視察と称して同行させた。
それなのに本人を前に、好奇心が勝った。
ほんの少しフェロモンを浴びせたらどんな反応するんだろうか?と思ってしまったんだ。
マンションについてからも、俺を見ておどおどする遥に何となくムカつきイラっとしたらフェロモンが勝手に出てしまい、遥はまた軽いヒートを起こしてしまった。
全身に浴びた遙のヒートは俺の感度を上げ、吸い付く肌や心地のいい香りと匂いで、天にも昇るほどの快楽を味わった。
泣いて縋り付く姿は可愛く、快楽を貪る姿は妖艶でどれをとっても俺にはご褒美でしかなかったし、中に入った時などは体が痺れていきそうになった。
とにかく、どれだけ美人を抱いてもあれほどの快楽を与えられたのは初めての事だったし、もう、他の奴の相手など想像もつかなくなっている。
「常務、顔がだらしなくなっています、会社では少し自重していただかないと、罰としてタイトなスケジュール組ませていただきますよ?」
平野がタブレットとスマホでスケジュール管理をしながら横目で俺を睨んだ。
だらしなくもなるだろ、”番”だぞ?しかも”運命”だ、やっと手に入れたんだ、少しくらい顔が緩んでも仕方ないだろ。
「自重する、で、物件はいつ頃になる?」
「すぐに入居できると思います、ここは五十嵐のグループ企業の物件なので。」
「じゃあそれで頼む、あいつの事は知られるわけにいかないんだ」
「少しだけよろしいですか?」
スマホとタブレットを小脇に抱えこちらを向いた平野が怪訝な顔をした。
「なんだ?」
「彼をこのままあの家に閉じ込めるおつもりですか?」
「どう言うことだ?」
「世間から隔離してしまわれるのか、とお聞きしているんです」
「…仕方ないだろう、五十嵐の”嫁”は山東みやびなんだから」
鋭い視線を向けた平野が大きなため息をついた。
「あなたも酷い事をしますね、彼は物ではありませんよ?人権もある1人の人間です、それでも囲い込まれるんですか?」
ぐうの音も出ないほど、的確な意見だ。
そんな事言われなくてもわかっている。
でももう手放せない。
長年探してきてやっと見つけたんだ。
「そうだな、俺は最低だ。何と言われようと構わない、日陰の存在かもしれないが、俺にはあいつが必要なんだ」
長い沈黙の後、もう一度大きなため息をついた。
「…失礼しました、でもいい結果にはならないのではないですか?ちゃんと向き合って話し合った方がいいと思いますが…」
「それは…そうだな、心に刻んでおく」
もうこのまま閉じ込めて置いてもかまわないと俺自身は思っている。
遥に結婚のことは話さない。
我儘なのは百も承知だ。
仕方ないだろ、生まれ出る出自は選べない。
五十嵐家の跡取りに生を受けたのも、α性だったのも、遥の運命だった事も俺が選んだわけじゃない。
全てが必然だったんだ。
「例の場所に行った後、出張先へ向かう、その時は違う奴を連れていくからお前は遥を新居に連れて行って面倒見てくれ。くれぐれも俺が行くまでは何も伝えるな、後βで護衛もできるやつを1人付けてやってくれ」
「了解しました」
とにかくやっと手中に納めたんだ、今はまだ遥の心までは奪えていないが今まで待ったんだ、これから何年掛かろうが絶対あいつの全てを手に入れて見せる。
そう心に刻んでスーツの上着を掴んでこれからの段取りとしてある場所へ向かった。
外堀は早めに埋めておかないとな…。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
振り乱した遥はとても綺麗だ。
会社へ視察に行ったあの日、もさっとした雰囲気にひょろっとした身体。
とても見目麗しいと言われたΩとは思えないほどの野暮ったさがあり、本能では”運命”だとわかっていても、これが俺の探していた人なのかと、少し身が引けた。
だが軽いヒートを経て開眼した遥は、Ω性が表に出てきたのか、とても表現できない美しさを発揮していて、こうして俺に怒っている姿を呆然としながら見上げていた。
親戚縁者にも殆ど縁がない遥の身辺は母親ただ1人だけと、大学を卒業して入社した会社の同僚くらいのものだった。
彼の過去を調べると友人や近所付き合い等、ほとんどしていない。
ただ、父親が亡くなってから頼った家の家族とはそこそこ関係性は構築していた様で、母親に挨拶をしに行った時にそこの家族の息子に少し絡まれたくらいだった。
外堀を埋めて囲い込む作戦は驚くほど簡単に思い通りになった。
それを突きつけると”もうなんでもいいや”と懐にすんなり入ってきた。
それは無理矢理だっかもしれないが、俺としては第一段階をクリアしたと心の中でほくそ笑んだ。
仕事をさせて欲しい、遥はそう言った。
とにかく、いつになるかわからないが、遥のヒートが来るまでは家にいてもらう、じゃないと逃げられる可能性もあるからだ、そこは平野に任せるしかない。
「平野、今からみやびと式場に行ってくる、山森連れて行くから、お前は遥を頼んだぞ」
「了解しました」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おそーい」
待ち合わせ時間の5分前、それでも文句を言われる。
決してみやびが嫌いなわけじゃない、天真爛漫で甘え方をよく知っているし、派手な容姿も遥を知らなければ好みだったかもしれない
「悪い、ちょっと仕事が押した」
「もー大事な衣装合わせなのに!」
「ごめんな、みやび」
これで頭でも撫でてやればこいつの機嫌は良くなる。
毎回同じことやらせんな、って、いつも思ってる。
「うん、もういい、わかった、早く衣装着よう!勝利さん絶対かっこいいよねー」
「俺よりみやびのがきっと綺麗だよ」
美人のみやびが結婚衣装を着ればきっと綺麗だ、でもこの衣装は遥に着せてやりたかった。
着替えたみやびの喜ぶ姿を遙かに重ねて眺めているとみやびが今度は怒った顔で座って見ていた俺の前で腰をおり目線を合わせて
「誰のこと考えてるの?」
一瞬息が止まりそうになって言葉が詰まってしまった。
ここはポーカーフェイスで
「もちろんみやびの事だよ、なんで?」
「勝利さん、僕の事バカだと思ってる?」
「思ってない」
「なら一つ聞いていい?」
そう言うとみやびは首元に顔を寄せてこう言った。
「ここについてるΩの匂い誰のかな?」
視線が合うとみやびがニコッと笑って
「ベッタリついてるよ、勝利さん」
咄嗟に首元に手を当ててみやびから少し距離をとってしまった。
「ふふっ、自覚なかったんだ、可愛い」
「会食した先にΩの秘書が居たからだろ」
「…ま、そーゆーことにしといてあげる、ねぇそれより僕の衣装どーかな?似合ってる?」
「ああ、凄く似合ってるよ、綺麗だ」
少し顔が引き攣ってるか、笑えていないか、どちらにしても遙のことはもう知られている?
まさかな…
相手は何年も続いた政治家一家だ、どこに”耳”がついてるかわからない。
「ほらまた考え事、勝利さんわかりやすい、ふふっ。ねぇ、もう衣装はこれでいいから食事行こう、福平飯店の中華!フカヒレ食べたい!」
出来ることなら遥とこうして式の準備や外で外食ができればな…そう思いながらみやびのご機嫌をとり政略結婚をする俺は本当に最低だな。
今頃遥は何してるんだろうか?
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