第六夜 無血の烙印

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連動というより、連鎖というべきだろう。八香姫として、快楽の施術を受けてきた身体は、元史の行為に当然悦びを感じ、自ずと直江の指を締め付ける。 「とんだ好き者だな」 喉の奥で笑う元史の言葉を否定する声はない。否定どころか肯定を告げるのは、他でもなく雪乃本人。直江の指を数本、奥まで咥え込み、愛蜜を溢れさせて、妖艶な音を奏でている。 元史に息を封じられて達し、赤い痕が散る肌を跳ねさせ、閉じようとする足を奮い立たせて空気を震わせる。 腰を浮かせ、息を走らせ、三人の男の輪の中でうねり狂い、視姦されているのに悦び、ねだる。それを「好き者」以外の呼び名があるなら知りたいものだと、雪乃の口に挿入しながら元史は笑う。 「……ぅ、ぐ……ッ」 「優しいほうを好むと言ったな」 「~~~~ンンっ、ぅ……ぁ」 「元史、雪乃の息が止まる」 「いや、兼景。苦しいのは、それほどイヤではないらしい」 畳に押し付けるように自身を深く突き刺した元史の圧力に、雪乃は苦しみの嗚咽を訴える。力がこもる指先に、握られた兼景が苦難を伝えたが、それを棄却した元史は、雪乃の足の間をアゴで促した。 「雪乃、元史の言葉が真かどうか、それでは見えぬ」 「ぐ…~~ぅ…ん、クッ」 眉を寄せた兼景が、雪乃の膝頭を押さえつけたせいで、雪乃の腰が浮く。途端、雪乃は第三者から見てもわかるほど、盛大に吹いた。 けれど、それは一概に兼景のせいとも言い難い。直江の指が子宮口付近を撫でたせいかもしれないし、元史の雄が喉の中腹まで入ったせいかもしれない。 三人の男に絶頂を与えられた雪乃の果肉は、潰れた汁を撒き散らして畳を濡らし、飛沫させた蜜で、そこら辺を水浸しにしていた。 「……ッ…ごほっ、ぅえ……ぅっ……」 喉を押さえて咳き込んだ雪乃は知らない。 それが床戦の合図であり、貝笛と呼称される一種の隠語であることを。 「やはり鬼畜だな、兼景」 「元史に言われたくはない。それに直江ほどではない」 「たしかに、八香姫の指南役殿は涼しい顔をして、なかなか腹黒い」 身体を守るものが、長く伸びた黒髪だけなのは心細い。そうは言っても、肩で息をする雪乃とは対称的に、男たちは瞳をぎらつかせ、獰猛さを隠しもしない刃を見せ合う。 「貝笛は吹いた。誰の鎌首が落ちるのか、長き夜と参りましょう」 喧嘩を売られた直江は、あっさりとそれを買った。 正式に床線が幕を開ける。 雪乃に逃げ場はない。兼景も、元史も、ようやくカタがつくと息巻いて、各々に肌の上へ侵略を始める。 そうして数刻。畳の床は濡れ、白濁と愛液にまみれ、うすくなった酸素のせいで、まともに働かない脳は、本能のままに、ただ、ただ、快楽をむさぼっていた。 「…っ……ぃ、クッ……ァッぁ…いくッぅ」 何度目になるかわからない絶頂に、雪乃の声が爪をたてる。 ぼこっと、音を立てて引き抜かれたそこから、女の匂いが濃縮された液が垂れるが、男はまだ現役だと伺い知れる。 「雪乃、いまのはどちらだ?」 「わかりま、せ、ん……ッも、もぅ……わかりません」 「では、どちらか」 直江の声が次をうながす。 雪乃が視覚を奪われたのは、何戦か前のこと。兼景のしつこい攻めに雪乃が陥落されると懸念した元史が、どこからか持ってきた布で、雪乃の視界を奪った。 その時点で、何度か気をやり、意識朦朧の雪乃だったが、まだまだ終わらないことを知り、武将が戦を行うときの底無しの体力を知って、絶望を得ていた。 「ヤッ…っ…ん……ヒッぁ」 「まだ鳴けるな、雪乃。もう鳴けぬとは言わさんぞ」 「も、元史さ、ま………ッアァ」 「なんだ、雪乃。まだ足りぬと申すか。よい、そなたの望む限り舐めてやろう」 「雪乃、しつこい男は嫌いだと言ってやれ」 「雪乃は、弱いな。ここが」 右か、左か、前か、後ろか。視界を奪われた身体は方向感覚を失い、与えられる刺激にだけ溺れていく。 先程から兼景は秘部に顔を埋めて愛蜜を堪能していたし、元史は胸の原型を失くすほど揉んでいた気がするのに、今はどちらがどうとは判断に困る。 恐らく、神経が機能しているなら、二人の男の指がそこに入り、どちらが雪乃の内部を制圧するのか競っているのだろう。同時に右の乳房も、左の乳房も、それぞれ好きに吸い付かれ、噛まれ、揉まれれば、雪乃になす術はない。 「はぁ……ッ…ぁ……はぁ…いく、イッく」 両者の指を締め付け、ぐったりと力を抜いて横たわる雪乃の足が持ち上げられる。 そのまま腰を持ち上げられ、引っくり返されたそこに、あるのは雄々しい針。どちらのか、考えている余裕はない。 「やっ…も、ぅ……アッぁ…ぃ…あ」 元史と兼景に串刺しにされ、汗も唾液も愛蜜も滴らせ、懸命に応じる雪乃の儚さが崩れ落ちる。それを支え、さらに圧力を加え、自己の権力を主張する武将は、誰も止められない。介入できるわけもない。ふざけているとか、戯れているとか、知らないものは言うだろう。けれど、これは真剣に、国の行く末がかかっている戦と同義。 負けは敗北。 無能と不能の汚名は避けたい。 それよりも、打ち付け合う心地よさが欲を煽って収まらない。 「たまらんな」 「嗚呼、雪乃こそ理想だ」 淫らに鳴いて、素直に求めて、抱けば抱くほど馴染んで吸い付く肌に、本能が溺れる。絡まる絹糸の髪。しなる細い腰。しがみついて爪をたてる小さな手。片手で掴める後頭部から覗く愛らしい舌。涙をためた瞳に懇願されるのを想像して、理性を保つほうが無理な話。 「いく…~ぅ…ヒィ…ッ…ぁ、あっァア、イッ」 はっきり言って、優劣はつけがたい。 どちらが触れても雪乃は敏感に悶えるし、容易に達する。交互に名を呼び、足を開いて出迎える。 必然と戦況は長引いていた。 打ち付ける回数も、雪乃を果てさせた数も、互角とくれば、終わりは見えない。 あとは耐えきれず、兼景か元史のどちらかが白旗をあげるしか道はない。 しかし、これ以上は無理だと、雪乃が根をあげようとしたそのとき、突然、それは終わりを迎えた。 「それまで、相討ち」 判者として、成り行きを見守っていた直江の声が終わりを告げて、三人はそろって床へと身を投げ出す。雪乃は自分の身体に、もう何発目かもわからない、液体がかかるのを知った。 息もままならない疲労感は、戦い抜いた興奮と、出し尽くした快楽で満たされて、何とも言えない気持ちを与えてくれていた。 「で、何故、直江とやらが参戦している?」 「決着はついた。固唾を飲んで見ていただけ褒められたいものだ」 文字通り大の字で寝転がっていた元史が、自分の右隣にいた雪乃のうえに、直江の影が落ちたのをみて息を吐く。 目隠しをいいことに、直江はこれから雪乃を襲うらしい。 「雪乃は厄介な男に好かれるな」 終わったはずだと、混乱と焦燥にかられる雪乃の声が畳を泳ぐ。けれどすぐに捕まり、羽交い締めも同然で、雪乃は直江に犯されていた。 問答無用の仕置きに、助けを求める雪乃の声が、また男としての欲を誘う。 元史は自分の腕を枕代わりに、直江に犯される雪乃を眺めていたが、その雪乃の向こう側に好敵手を見つけてニヤリと笑った。 「雪乃、執着心や独占欲の強い男を選ぶと、ロクなことにならんぞ。俺を選べ」 「ぁッあ…ッく…ぃ…ぐぅ……ヒッ、ィ」 「見苦しいぞ、元史。雪乃の頑張りに、強いることは許さぬ」 「やっ、も、アッぁそ、それ……あぁァアぁッ」 「頑張り、ねぇ」 たしかに頑張っているな。と、元史は目の前で揺れる塊に意識を向けた。強行突破した直江の技巧は、やはり八香に由来する者の類いだとうなずけるが、他人の下で喘ぐ雪乃を見つめる兼景の目の方が怖いと思わなくもない。 あそこまで執着されれば、雪乃もさぞ困るだろう。兼景の母、津留と奈多姫が敵将に贈るわけだと、あらためて納得する。 「直江、それ以上致すなら首を跳ねる」 雪乃が髪を振り乱して豪快に果てたのを確認し、ついでに直江がそれをきつく抱き締めたところで、いつの間にそれを手にしたのか、兼景の愛刀がギラリと光った。 「そういうところだろうよ」 「なにか言ったか、元史?」 「いや、一人の女に向ける感情がそこまでとは、恐れ入った」 「雪乃は渡さぬ」 「…………だろうな」 せっかく無血で戦の終点を迎えたのに、このままでは、本当の戦になると直江も察したのだろう。 雪乃の体内から刀を抜き、鞘に納める。 力なく、ぐったりとした雪乃は兼景に預けられ、次いで、はずされた目隠しの下は濡れた睫に閉じられていた。
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