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第六夜 無血の烙印
母親の野菊が蛇のように絡み付く肢体を持つのであれば、娘の雪乃は蛇のように締めあげる肉体を宿していた。
あの指南役の直江でさえ、根をあげる代物。指先ひとつ動かすことなく、内部の収縮だけで、呆気なく男は弱音をあげて、懇願の声をこぼすだろう。
ところが、現実はそう甘くもない。
ここで「負け」を認めれば、床戦で敗北したも同義。それは武将以上に男として、沽券に関わる重大な決定でもあるのだから、簡単に白旗はあげられない。
「雪乃、悪かった。機嫌を直せ」
「どこが痛む。ここか?」
「……ッ…ぁ……違いま、す」
「どうしてほしいのだ、申せ」
「ん、ァ……元史さ、ま…ッく…兼景様ぁ…ぁ」
「雪乃、嗚呼、本当にお前は愛しい」
先ほどまで好き放題雪乃を求めていた男たちは、打ってかわって雪乃の機嫌を伺い、反応を見ながら攻めかたを変える。摘まんでいた乳首を舌で舐めて癒し、叩いていた臀部を撫でて労る。
肌を真綿で包むように触れ、不機嫌に歪む顔から許しの声が紡がれるまで、男たちは雪乃へ奉仕の限りを尽くす。
「ぁ……はぁ…ッ…はぁ……んッ」
自然に雪乃の腰が揺れ始め、粘着性のある音が結合部から響き始める。愛撫に溶けた身体は、剥き出した警戒心を少しずつ解き放ちながら、男たちから貢がれる快楽を享受してねだり始める。
「……もっと……ッ……ァッ…」
雪乃の反応が素直に悦びを歌えば、奏でる者たちの反応も変わってくる。時間をかけて、ほぐされていく身体は、三人ひとつに溶け合うほど熱をあげ、互いに呼吸を合わしていた。
ところが、三人がようやく馴染んで、互いの肌の熱を認識し始めた頃、途端に周囲が騒がしくなる。
「何奴、今ここは床戦中であるぞ」
「あーあー、知ってるよ。ったく、どいつもこいつもうるせぇな」
「うるさいのはどちらだ。その首、頂戴する」
「はいはい、どうぞ」
「なっ、無礼であるぞ、名を、名を名乗れ」
「無礼はどっちだよ。んな、忍装束の男に名乗る名なんて、あ、お前あれか、玖吏唐か?」
「……ん、まさか」
「ってなわけで、失礼するぞ」
仕切り扉が真横に音を立てて開く。当然、そこには声の調子でわかってはいたが、わかりたくなかった人物がいた。
「直江、どうしてここに!?」
「探したぜ、雪乃。お前なぁ、もっと姫としての自覚持てよ」
だるそうに首の後ろに手を置いて、小気味いい音を鳴らしながら侵入してくる。玖吏唐は雪乃を見た瞬間に真っ赤に顔を染めて、しかも、直江が開けた襖をきちんと閉めて消えてしまった。
刺激が強すぎたのか。それにしては、湯浴みしていた雪乃をさらうときは躊躇がなかった。
普段、影に生きる忍びというのはよくわからない生き物だと、雪乃は呆気にとられて現状に目を瞬いている。
「へぇ。こいつが、悪名高き直江か」
「そういうお前が玖坂元史だな。よくも、うちの姫をさらってくれた。しかも、なんだこれは。継承もしていない姫に床戦をさせるなんざ、八香を敵に回すつもりか?」
「待って、直江」
「下がれ、雪乃。お前は帰ったら仕置きだ」
身体を起こした元史にならって、二人の男から這い出た雪乃は、ひとり直江の前に立ちはだかる。ところが、ものの数秒で申し出を棄却された雪乃は、わかりやすく撃沈して、唇をかんだ。
その様子にほだされたのか、兼景が雪乃の肩を抱き、ついでに直江を睨み付ける。
「直江、下がるのはそなたの方だ」
それに怯む相手であれば、どれほど穏便に済んだことか。
直江は武将二人を前にしても臆するどころか、ますます不敵に笑って、距離を漠然と詰めてくる。
「これはこれは兼景様。あなた様であれば、こうはならないと、少々買い被っておりました。うちの姫さんは、まだ初陣を済ませたばかりでね。誰かさんが昨晩のうちに、妙な薬を盛ってくれたおかげで、休ませていたところ、拐われたと知らせが入って来てみれば、この状況。目を疑うとは、よく言ったものだ」
「愚弄するか、直江」
「直江、言いすぎよ。兼景様は何も悪くないわ」
兼景の腕のなかで、甘えるように身を寄せる雪乃まで、一緒に睨み付けてくるのだから迎えに来た直江にしてみれば、いい気分にはならないだろう。
わかりやすくため息を吐いて、できの悪い生徒を持つ教師のように、雪乃をじっと見下ろした。
「雪乃、掟違反だ。床戦は、判者に八香の人間をつけるものだと、採算言い聞かせて」
「ならば、ちょうど良いではないか」
横から口を挟む男は、元史に決まっている。この状況で楽しめるのはさすがというべきか。
なにが「ちょうど」良いのかはわからないが、妙案がまた浮かんだのだろう。
「直江、貴様がその判者として、この戦の結末を見届け、世に知らしめれば良い」
「元史。直江は、判者を受けぬぞ?」
「受けぬかどうか、それはどうでも良い。戦はとうに始まり、終わりを待つのみ。そいつが受けても、受けんでも、俺は雪乃を抱く。貴様もそうであろう?」
「抱くと宣言する男を前に、引く度胸は持ち合わせていないな」
「ははは、それでこそ兼景。なあ、雪乃。直江とやらは、雪乃の何だ?」
兼景の腕のなかにいる雪乃へと元史は顔を寄せる。あえて耳元で囁くその風体に、直江のこめかみがピクリと動いた気がした。
「直江は私の指南役です」
「なるほど。この身体を開発した者、か。面白い。それはさぞ、この状況が腹立たしかろうな」
腹立たしいに決まっている。
そう口にできれば良かったのかもしれない。けれど、直江は何も口にしない。
その様子に口角をあげた元史の笑みは、さらに悪戯な光を含んでいく。
「雪乃、貴様は俺との勝負を放棄するか?」
そこで首筋から乳房に触れ、掌でそれを包んだ元史に、雪乃の吐息が漏れる。
勝負の放棄は、もちろん「致しません」と、雪乃は答えた。
「雪乃、今一度問う。八香として床戦を続けるか?」
「はい。八香の姫として、床戦を致します」
「というわけだ。諦めろ、直江。貴様が判者になりたくなくば、別の者を寄越せ」
手の平を雪乃の胸から放した元史が、虫でも払うように直江を払う。その流れで、雪乃の唇をついばみ、口を吸いながら組み敷いていくのを二人の男はあきれた様子で見守っていた。
「直江、主君の命だ。諦めろ。雪乃が今すぐ床戦を辞めると言わぬ限り終わりはない」
元史を殺したい気持ちは誰よりわかると言いたげに、自分の腕から奪われ、今は畳の上で元史の口付けに応える雪乃を見ながら兼景はいう。
その手はまだ、名残惜しそうに雪乃の肌に触れていたが、元史がそれさえも奪おうとしていた。ところが、それに気づいた雪乃が組み敷く元史の隙間から、兼景へと言葉を返した。
「兼景様。私に二言はございません。床戦に応じ、見事、役目を果たしたいと思います。だから、直江」
「臣下に願いは無用だ」
「ありがとう」
「礼も不要だ。さあ、足を開け」
兼景に次いで、直江にも声をかける。
捨てられた子犬を眺める気持ちに駆られるのか、潤みを帯びた黒い瞳に見つめられて、直江も渋々承諾したようだった。
しかし、承諾すれば話の早い男。直江は開き直りもいいところで、元史を脇に追いやり、自分が雪乃の中心を陣取る。
「正式に床戦を受けるのであれば、判者は不可欠。これからを本番とするなら、これまでは無効となり、内部をかきだし、ならす必要がある」
命じた意味を告げながらの直江の行動は流麗で、臣下が主君に命令するなどという異様さも去ることながら、雪乃が大人しくそれに従ったことに、兼景と元史は驚きを隠せない。
床戦を説明する直江は、淡々と雪乃の割れ目をまさぐり、簡単にその恥部へと指を侵入させた。
「何回打ち付け、何回出すのか。判者として、正確に知る必要があるんでな。雪乃、その間も休んでいるなんて、するなよ?」
空気を壊して陣取る直江にか、易々と直江の言葉に従い、股を開く雪乃に対してか、どちらともつかない感情を抱いて、成り行きに身を投じていた兼景と元史は、ふいに自身の雄に雪乃の指が触れたのを知る。
当然、そこに目をやったが、自分ではない男の指に息をきらし、悶えながら愛らしい舌を覗かせるのをどう見るべきか。ただ、本能とは無情なもので、感情が苛立ちや不満を訴えていても、雪乃という女を前にすれば、その小さな口や指で奉仕される悦びを感じ、脈打っていた。
「……ッ…あぁ……っん、ぅ……」
直江の技巧に奮闘する息が切なく誘う。
聞こえる声に魔物でも飼っているのか、必死に雄へと舌を伸ばし、届かないそれらを指で包んで、求める顔から視線を反らすのは難しい。
「アァッ…んっ…はぁ…はぁ、ッ、ぐ」
元史がおもむろに雪乃の後頭部へ手を回し、そのまま腰を押し込んだ。
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