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第一夜 密約の指導
幼いころより、立場や役目を教え込まれてきた。
八香(ヤカ)一族の頭首である野菊の元に生まれたからには、未来は決まっているも同然。雪乃(ユキノ)は自分の意志が芽生える前から、当然のことように将来は野菊の後を継ぎ、八香一族を率いる者としての覚悟が求められてきた。
八香一族は、床術を自在に操ることで、本来なら弱者として操られるだけのただの女でありながら、権力を操れるほどの力を身につけた一族の総称。
古くは戦神の血をひき、交わりにおいて、勝利を約束してきたと言われている。
「ッ…ぁ…~~っぁ」
開いた股の間に埋まる後頭部を押しのけようと、かれこれ数刻。
「ヤッ…ぁ…そこっ…待ッてあぁ」
一向にどけてもらえないどころか、時間を増すごとに埋められた箇所でうごめく何かは雪乃の弱い部分を攻め立ててくる。歴史の重厚感漂う和室の一角。物心ついた時から、八香に生まれたものは皆、代々伝わる技術と技巧をその体で学ぶように訓練を行うことが義務付けられている。
それは、八香当主の娘として生まれた姫君であったとしても例外ではない。雪乃の母、野菊は十五歳にして立派に務めを果たしたと言われている。ところが雪乃は十八歳にして、まだ初陣もしていなかった。
「相変わらず、やらしい味してやがる。ほら、みろ。鍛錬を怠ってる証拠じゃねぇか」
ペロリと舐めあげる舌の仕草に、ゾクゾクとした快楽が芯を駆け抜ける。
乙女の花芯を覗き込んでいた顔は、雪乃が荒い呼吸を繰り返すのに気付いて満足そうな笑いをその声に含ませていた。雪乃の高揚した胸元は上下に揺れ、赤く色づいた体は男を誘うように揺れている。
「何回気をやってんだよ」
雪乃の足の間から顔を上げた男は、端整な顔立ちを崩しもせずに、雪乃の内部にその長い指を押し込んだ。
「ったく、だらしねぇ顔しやがって」
「ッぁあ…っ…ぁああ」
「八香の姫君なら、これくらい耐えて当然だ」
「~~~っく…ヤッ…ぁ…ひぁっ」
肺腑の奥まで息を吸い込んでも、熱に侵された体は微弱に震える声しか吐き出さない。面白いように内部をもてあそぶ男の指技に、雪乃の体はメスの匂いと愛蜜を部屋中にまき散らせていた。
「そう、いい子だ。もっと耐えられるだろ?」
「ぁ…ぁ無…理…~~ッヤ…なお…ぇ」
ふるふると雪乃は降参を示すように、指導を仰ぐ男に懇願の瞳を向ける。
「そういう顔は母親以上だな」
「ッいやぁァアアアっァぁあああ」
両手で必死に乙女の暴虐を働く男の手を止めようとしたところで、所詮無駄なこと。雪乃の腕はいとも簡単につかまり、頭上へ束ねられ、足の間を支配する指南の技に虐げられる。逃げれば逃げるほど、男の腕は自由自在にその脆い器を堪能していた。
「イッ…ぁ…もうイッちゃったの…イッちゃったからぁ」
許してほしいと甘い鳴き声を枯らしながら、雪乃は弓なりに暴れる体で自分を支配する男に嘆願する。
「だから?」
「ッぁあ?!」
「感じてばかりで、ちゃんとやる気あんのか?」
「~~~~ッひぁ」
ずるりと解放された体。引き抜かれた指先がいやらしく光るのを横目に、雪乃は解放されたばかりの体を震えるように抱きしめた。はぁはぁと呼吸はまだ落ち着かない。
この部屋に招かれてから一体どれほどの時間が過ぎたのだろう。考える思考回路までグダグダに蕩けてしまいそうだと、雪乃は自分の蜜で濡れた指先を舐める男へと恨みがましい視線を向けた。
「自分の力の無さを俺のせいにすんじゃねぇよ」
「なっ!?」
技だけでなく口でも勝てないことはわかっている。けれど、修行の場から離れて一年あまり。久しぶりに顔を合わせた師匠は、どうやらしばらく顔を見ない間に読心術まで会得してしまったらしい。
「野菊様から再度、お前のお守りを仰せつかったときは何事かと思ったが」
「そっそれは」
「あれだけ仕込んでやったってのに、まさか、雪乃がここまで出来の悪い生徒だったとはな」
「っぅ」
「悪いな。お前が調教しがいのある女だってこと、うっかり忘れちまってたわ」
チクチクと棘の刺さるような言い回しをしてくるのは相変わらずで、雪乃もまた、十三歳から十七歳までの四年間、男を懐柔するための知識や技術を学んだ相手に、もう一度教えを乞うことになるとは夢にも思っていなかった。
わずか一年前までの嫌な記憶が蘇ってくる。
四年もの間、雪乃は目の前で嫌味を飛ばしてくるこの男に散々な目に合わされてきた。おかげで人一倍感じる体になってしまい、男を感じさせるどころか、自分が感じるばかりでどうしようもない。八香の頭首としての見聞を広めるためと、昨年ようやくこの男から離れられたというのに、雪乃は自分の運命を呪うしかない定めに唇をゆがめていく。
「なっ直江(ナオエ)のせいなのよ!」
一糸乱れない男に向かって、雪乃は自分の体を守るように抱きしめながら涙目で抗議する。
「私の体をこんな風にしちゃったのは、もとはと言えば直江がそうしたんじゃない」
「へぇ、言うじゃねぇか。敏感になったのは俺のせいだ、と?」
「そうよ…っ…キャッ」
つーっと足の先から滑らかにすべる直江の指先に雪乃の体が反応する。ビクリと、感度のいいその様子に、直江はクスクスと笑っていた。
「わっ笑い事じゃないのよ。どうするの、私、こんなのじゃ仕事にならないわ」
「面白れぇじゃねぇか。はしたなく感じる娼婦になっちまえば」
「いやよ。母様のように私も必要とされる八香でありたいもの」
議論は水をかけあうように馴染まない。そういえば、直江に訓練を受けていた当時も、同じような押し問答を繰り返した記憶がある。
「っ…ぁ…直江っ…やめっ」
「本当に、随分と敏感に育ったもんだな」
「だっ誰のせぃ…っ…だと思っ…~~~くっ」
「ほら、腰がもうねだるように動いてやがる」
クスクスとからかうように微笑む男の顔は、野性的で粗暴さが目立つ。それでも整った顔立ちはどこか色気が漂い、美しく、里中の女から「直江に指南してほしい」と依頼が来るらしい。普段はやる気がなさそうに欠伸をこぼし、猫のように日向ぼっこをしている印象がある直江だが、だるそうな姿は一片、鬼のような気迫と無敵の気配が重力を見せつけてくる。
彼に技巧を学びたいというよりかは、彼の技巧に溺れたいという女が多いのだろうが、間違いなく、八香の里に生まれ落ちた者であればこう思うだろう。
「俺をイかしてみろ。そうしたら、どんな仕事も楽勝に勝てるぞ」
打倒直江。彼に抱かれれば男に対しての耐性がつき、どんな仕事も軽々こなせるという一種のお守りみたいなものだ。
「~~っ」
高揚した赤い顔の雪乃が、直江を押し倒すために突き飛ばす。少し驚いた顔を見せた直江は、自分の上を陣取ろうと奮闘する少女の姿に、余裕の笑みで手招きをした。
「悔しいか?」
「っ…ぁ…ぁ」
「いい顔だ。雪乃、好きなようにやってみろ」
大人の余裕なのか、百戦錬磨の男の余裕なのか、そのどちらもなのか。それの正体はわからないが、雪乃は一枚ずつ丁寧に直江の着衣を剥奪していく。するすると衣擦れの音が妙に神経を逆なでてくるが、雪乃はその服の下から現れる、直江の美しい裸体に思わず息をのんで固まった。
「そんなにいいか?」
「ッ!?」
はっと、雪乃は慌てて直江の服を脱がしに戻る。
きめ細やかな肌と均整のとれた体つき。触れれば吸い付くような滑らかさと、脳みそまでほだされそうなほど甘い匂いが、真下で剥いた肌から漂ってくる。
「別に初めて見るものでもないだろ。物欲しそうな顔してねぇで、さっさとやれ」
どこか困ったような直江の顔が苦笑する。すべてを脱がし終わった雪乃の目の前に現れたそれは、記憶の中よりもはるかに大きく、太く、たくましいほど上を向いてそそりたっていた。
「懐かしい光景だな。なぁ、雪乃?」
「ッ…っ~~ぁ」
「さて、覚えているかじっくりと拝見させてもらいましょうか。雪乃姫」
「~~っん」
ぎこちない雪乃の指先がおそるおそる直江の棒に触れる。最初は緊張気味に震える指と舌で直江の反応をうかがっていた雪乃だったが、そのうち、慣れた手つきで直江のものを喉の奥まで迎え入れていった。
「上手いぞ」
頭を撫でてくれる直江の手のひらが心地いい。
奉仕は昔から嫌いじゃなかった。直江が唯一、顔を歪めるからかもしれない。自分だけが直江を苦しめることも、楽にさせることも出来るのだという、支配と懐柔の悦に浸れることもまた要因のひとつだろう。
雪乃は貪るように直江のものを咥えながら、そっと視線をあげてその顔を盗み見ることにした。
「大丈夫だ。ちゃんと気持ちいいから、そのまま続けろ」
「ッ…っ…んっ…ぁ」
卑怯だと思わざるを得ない。何をやってもこの男に勝てないような気がしてくるのはなぜだろう。主導権を持っているのは確かに自分のはずなのに、直江のモノを堪能し、欲しがっているのは他でもない自分かもしれない。
「雪乃、こっちに体をもってこい」
ビクリと雪乃の体が硬直する。安易に自分の顔の方に尻を向けてまたがるよう、指示をしてくる直江の要望にはうなずけない。舐めているだけで感じていることが悟られる体制にはなりたくなかった。
「教えてやっただろ。まずは、男の要望に従うのが礼儀だってな」
指南とはよく言ったもので、彼が教師として絶対の地位を築いている以上、雪乃に拒否権は存在しない。潜在意識の中に刷り込まれた主従関係は、一年ちょっと離れたくらいでは、どうにも挽回できるものではなかったらしい。
「ッんンッん~~ァ」
言われた通りに、直江の顔の真上にお尻の位置がくるような形をとった雪乃は、情欲に濡れた恥ずかしい箇所を直江の眼前にさらすという痴態に顔を赤らめる。
「ッンン…ぁ…直江っあぁ」
「中までドロドロじゃねぇか、はしたない姫君だな」
「ヤッ…ぁ…っ~~ぁだめぇ」
「さぼってねぇで、ちゃんと続けろ」
「んッぁ…くっ…ひっ」
圧倒的優位な体勢で上を陣取っているにも関わらず、すでに敗北が決定しているような不安定さに意識が混乱していく。直江に参ったと言わせたいと願えば願うほど、無防備な状態で彼の前にさらけ出した乙女の花園から蜜があふれ出していく。どうしてかはわからない。
感じたくないのに、感じてしまうのは彼から授かった調教の賜物なのだろう。
「なぁ、雪乃。どっが先に降参するか、このまま勝負しようぜ」
「っやぁああッ…ひっ…ぁ…ぁあ」
「俺が勝てば、そうだな、好きなように抱かせてもらうことにしよう」
「ッ!?」
体の中心まで侵入を許した覚えはないはずなのに、電気が走るほどの快楽を直江は与えてくる。これが指と舌だけだというのだから恐ろしい。そして自分の勝利を確信しているところがまた、悔しくて、どうにもならない。
勝ちたいのに、勝てない。十歳も年が離れた相手に勝てるほど、雪乃は経験も積んでいなければ体験もしていない。直江と離れた一年は、禁欲生活に拍車をかけるように、学問ばかりを習っていたのだから無理もない。
「あっ…ァア…いやぁ…なおぇ…直江っ」
彼のものはもう口の中に含むことさえままならない。
「ッ…くっ…ィクっ…ぁ…ぁ」
チカチカと明滅し始めた視界が狂おしい。このまま、また強く果ててしまえば直江の手中で踊ることは必須。雪乃は雑念を振り払うかのように昇華を思いとどめ、色香とは無縁のことを想像しながら、必死に直江のものを口にふくむ。
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