「リゼル・オロ・レヴェニア殿下」

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 それから五日経ち、アルケミラにやってきたのは兄ではなかった。純白の司祭服は闇の中でぼうと浮いて見える。金髪の男は本の山に埋もれているリゼルの姿を認めて淡く微笑んだ。 「殿下、早急にお伝えしたいことがあって参りました」  本から顔を上げて立ち上がると、リゼルは真剣な顔を作る。ここに来たのが兄ではないことから、何を言われるのかだいたい予想はついていた。 「何ですか?」  父王がお亡くなりになりました、と司祭は悲痛な顔で告げる。 「そう、ですか」 「あまり驚かないのですね」 「ぼくはこの場所から離れたことがありません。父上を見たことも数えるほどしかありません。限りなく他人です」  淡白なリゼルの言葉に司祭は片眉を動かした。だが、リゼルの関心はそこにはない。父王を討つのは上手くいった。それならば、なぜここに来たのが兄ではないのか。 「そういうものですか……。ともかく、何があったのかを話すところから始めましょうか」  ──兄、エリオット・プラタ・レヴェニアは、ホムンクルスと共に黄昏の獣を狩る騎士として戦場に出ていた。彼はホムンクルスを人とみなすことのない世界に憤り、挙兵。王の元へ駆けた。しかし、ホムンクルスの多くを味方につけたために王の軍勢は手薄、という予想だけは成り立たなかった。今までの製造ペース、今のホムンクルスの数。エリオットはすべてを鑑みて判断したとも。けれど、そう。数は予想を裏切った。より完成度が高く、製造ペースの早いホムンクルスによって、彼の計画は根底から崩れ落ちた。エリオットは父王の首を取った。が、その時には形勢は完全に逆転し、反乱の全ては主導者が捕らえられたことによって、呆気なく幕切れとなったのだった。
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