「リゼル・オロ・レヴェニア殿下」

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 ぐらぐらとリゼルの視界が揺れる。視界の端から真っ暗になっていく。だって、それじゃあ……、兄が失敗したのはリゼルのせいだ。王が狩ろうとした“黄昏の獣(デルニエ)”は兄だった。  リゼルはふらつく足に力を入れる。そうしなければ、崩れ落ちてしまいそうだった。司祭は微笑む。能面のような笑い方だ。細められた目の奥には、獲物を前にして舌なめずりをする肉食獣の光があった。気がつけば、司祭はリゼルの前に跪いて、蒼色の瞳で真っ直ぐリゼルを見ている。リゼルの中まで覗かれているような、そんな気がした。司祭は震えるリゼルの手を取った。 「リゼル・オロ・レヴェニア殿下、玉座に着いていただけますね?」  リゼルは唇を引き結ぶ。父は死に、兄は虜囚の身に堕ちた。もう、王位を継ぐことのできる人間はリゼルを置いて他にはない。たとえ、どれだけ王になりたくなくとも、道は既に定められた。リゼルは地下書庫の亡霊をやめて、外へ、昼の世界へ行かなければならない。どうしても。  (つば)を呑み込んで、リゼルは灰銀の瞳から心を消した。王らしく。望まれるままに、玉座に座ろう。 「はい。ぼくはこの国の王になりましょう」  そして、その日、地下書庫の亡霊は死んだ。
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