28人が本棚に入れています
本棚に追加
ぐらぐらとリゼルの視界が揺れる。視界の端から真っ暗になっていく。だって、それじゃあ……、兄が失敗したのはリゼルのせいだ。王が狩ろうとした“黄昏の獣”は兄だった。
リゼルはふらつく足に力を入れる。そうしなければ、崩れ落ちてしまいそうだった。司祭は微笑む。能面のような笑い方だ。細められた目の奥には、獲物を前にして舌なめずりをする肉食獣の光があった。気がつけば、司祭はリゼルの前に跪いて、蒼色の瞳で真っ直ぐリゼルを見ている。リゼルの中まで覗かれているような、そんな気がした。司祭は震えるリゼルの手を取った。
「リゼル・オロ・レヴェニア殿下、玉座に着いていただけますね?」
リゼルは唇を引き結ぶ。父は死に、兄は虜囚の身に堕ちた。もう、王位を継ぐことのできる人間はリゼルを置いて他にはない。たとえ、どれだけ王になりたくなくとも、道は既に定められた。リゼルは地下書庫の亡霊をやめて、外へ、昼の世界へ行かなければならない。どうしても。
唾を呑み込んで、リゼルは灰銀の瞳から心を消した。王らしく。望まれるままに、玉座に座ろう。
「はい。ぼくはこの国の王になりましょう」
そして、その日、地下書庫の亡霊は死んだ。
最初のコメントを投稿しよう!