はじまりのお伽噺

2/3
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
 やがて美しい天のみ使いを連れた錬金術師は小さな箱庭の王さまになりました。錬金術という奇跡を人びとに請われて、たくさんの願いを叶えてきたからです。きれいな羽の生えた生きものを連れているのだから、この人は特別な人にちがいないと人びとが考えたからです。  望まれて、そして望んで王さまになった錬金術師は、白亜の城をつくって、高い尖塔をつくりました。きれいな天のみ使いを人びとに見せて、あがめるように言づてしたあとに、王さまはこのせかいで一番天に近い塔のてっぺんに天のみ使いをとじこめました。だれにも──神さまにも取られてしまわないように。  ほんとうのことはわからないけれど、たぶん王さまは天のみ使いを愛していたのです。きれいで無垢な天のみ使いの、金剛石の瞳に恋をしたのです。王さまは毎日塔に登りました。血のような紅玉、深い海のような藍方石、月が流した涙のような月長石。たくさんたくさん宝石や物語をあつめて、王さまは天のみ使いを微笑ませようとがんばりました。けれど、彼女はぼろぼろの翼を抱いて空を恋い、鈴蘭の声で泣くばかり。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!