「リゼル・オロ・レヴェニア殿下」

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「リゼル、いるかい?」  暗闇の中に明かりがひとつ増えた。リゼルはいそいそと椅子から降りて、兄の声の方へと向かう。 「兄上、お久しぶりです。今日はどんなお話をしてくれるのですか?」  灰銀の瞳を輝かせ、黒髪にはしばみ色の目をした十六歳の兄を見上げた。兄は照れ臭そうに笑うと身体をかがめてリゼルのくせ毛を優しく撫でた。 「今日はね、特別な話をしようと思うんだ」 「特別、ですか?」 「うん、とても大事な話。おまえを王様にする話だよ」  そして兄は優しくて聞き心地の良い声のまま、実の父を弑す話をした。父王を殺して、リゼルを王にして、兄は宰相としてふたりで一緒に国を守るのだ、と。 「……兄上は、それで、いいのですか? 兄上が王にならなくても、父上を手にかけても」  兄は頷き、リゼルの華奢な身体を壊れ物を触るように抱きしめた。 「ここに縛られたままのおまえを私は見ていられない。知ってるかい、父上はホムンクルスを人と同じように扱わずに、道具にしてるんだ。命が短いだけで、彼らにだって、心があるのにね。貴族も安全な場所で遊んでいるだけで、剣を取ろうともしない。……こんなのおかしいよ。私が今まで通り戦場に立っていても、何も変わらないのなら、私は父上を討つよ。それから、王の資格のあるおまえが王につけば、もう少し国を幸せにできるはずなんだ」
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