第24話 陰陽の表裏一体だもの

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第24話 陰陽の表裏一体だもの

 むすっと膨れた顔で頬杖を突く。機嫌の悪い妹の様子に、シンは肩を竦めた。あっけらかんとして根に持たない性質の末妹が、ここまで感情を引きずるのも珍しい。尋ねて欲しいのか、そっとしておいて欲しいのか。迷ったのは僅かな時間だった。 「リン、どうしたんだい?」 「何でもないの!」  強い口調で撥ね退ける。  兄に愚痴って相談したい気持ちはあるが、禍狗を封印した後ならともかく……現状を詳らかに説明するのは無理だった。ご先祖様が多大なる犠牲を払って封印した禍狗をうっかり開放してしまい、追いかけた隣大陸で騒動を起こし、逃げられたのだから。  呆れられちゃうわ。アイリーンはしょんぼりとした様子の兄に手を伸ばし、そっと指先を握った。 「ごめんなさい。でも平気、すぐに解決するわ」 「そう? 困ったら兄を頼るんだよ」 「ありがとう、シン兄様」  こてんと肩に頭を預けて甘える末っ子姫に頬を緩めながら、シンは残った書類を片付けていく。さりげなく混ぜられた書類の中に、明らかにシンが処理するべきでない物が紛れていた。 「父上は何を考えておいでなのか」  試されていると考えた時期もあったが、もしかしたら面倒な書類を回しただけか。調査が必要なその書類を返却用に振り分け、シンは椅子に寄り掛かった。可愛い末の妹は何か始めたらしいし、他の妹達は縁談や他国との折衝で忙しい。そんな時にサボる父親を思い浮かべ、肩を落とした。 「父上とリンは似たタイプのようだ」  カリスマ性があり人を惹きつける才能がある。能力も高いが、サボったり手抜きしたり抜けだしたり……とにかく周囲を振り回す。それでいて憎まれないのだから、得な性格だった。  羨ましいと思った時期もあるが、今になれば末妹の自由を守るのは自分だと自負している。そのために面倒な書類処理は私が引き受けるべきだろう。この国が瓦解してしまうからね。 「私がしっかりしないと」  苦笑いし、他の書類に取り掛かった。 「兄様に八つ当たりするなんて、ダメね」  しょんぼりしながらアイリーンは自室に戻った。専用の籠で熟睡するココの鼻先をつつき、溜め息を吐く。自分が悪いのは分かっているから謝れるし、感謝もできる。でも……相談は出来なかった。だったら何もないように振舞えばいいのに、それも無理。 「シン兄様の側にいると心地よいんだもの」 『彼は陰の性質だからね。陽のリンと相性がいいんだよ』  陰陽は光と影、常に表裏一体だ。どちらが優位でもなく、どちらかが滅びればもう片方も消滅する。正義と悪のような対立する関係ではなかった。互いに補い合うから、一緒にいて居心地がいいのだろう。 「早く禍狗を片づけて、シン兄様にうんと甘えたい」  お気に入りのクッションを胸に抱いて、ごろんと寝転んだ。うとうとしながら夢を見る。昨日会った時、ルイはすごく怒ってた。禍狗を退治するって言ったわ。あの禍狗を封印して元通りにしないといけないのに、ちゃんと説明したら分かってくれるかしら。  半分寝たような起きたような、中途半端な睡眠を取ったアイリーンは夕暮れ時に起き上がった。あまり眠った気がしないけど、今夜も頑張らなくちゃね!
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