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第四王子の正妃パトリシア
「あのー、仲良くお話しされているところに恐縮ですが……」
「お二人の邪魔をして申し訳ありませんが……」
そのとき、十二人がけの長テーブルの側に佇んでいるジャニストカイラが控えめに口をはさんできた。
というか、二人にはわたしたちがそんなふうに見えるわけ?
ああ、そうか。チャーリーとわたしって、一応夫婦なんですものね。
「パトリシア様は、第四王子の正妃です」
「先日のバラ園のお茶会でラン様が助けた、あの方です」
そのとき、二人が同時に言った。
そういえば、お茶会に乱入したわね。
それでもやはり、どういうレディかすぐには思い出せそうにない。
「ごめんなさい。やはりピンとこないわ。すでに『どれだけ待たせるのよ、このレディは』って不愉快に思うほどの時間は待たせたはずだから、とりあえず連れてきてちょうだい。あぁ別にいいわよね、チャーリー?」
「ラン、事後報告ありがとう。このシチュエーションで否定したら、おれは嫌なやつだろう?」
「そうね。というよりか、否定させないけれど」
彼とやりとりをしている間に、ジャニスとカイラは数名のレディを連れてきた。
「夕食中、ごめんなさい」
食堂に入ってくるなり、彼女は謝罪した。
その美しい顔を見て、やっと思い出した。
彼女、パトリシアって言うのね。
彼女の美貌を頭と心に刻んでおくことにする。
だけど、すぐに忘れるわよね。自慢ではないけれど、忘れる自信はある。
たしかに美貌だけど、このレベルの美貌はほんとうに多い。
とにかく、ここにいるわたし以外のレディは、侍女なども含めてみんな美しい。そういうレディしかいないといっても過言ではない。
よりいっそう美しいか、逆にわたしのように地味すぎたら覚えられるのだけど……。みんないっしょだと区別が難しい。
「お礼が遅くなったけれど、この前はありがとう。あなたのお蔭で、わたしだけでなく彼女たちも助かったわ」
「ラン様、ありがとうございました」
「ラン様、お礼申し上げます」
パトリシアだけでなく、侍女二人も頭を下げた。
そういえば、他の王族に仕えている侍女たちは、ジャニスやカイラやチャーリーの専属侍女たちをいびっているらしい。
それをふと思い出した。
「わざわざお礼を言いに? それはご苦労様よね。あれは、成り行きよ。乱入したら、たまたまあなたたちがいびられていた。それがムカついただけ」
彼女たちに言い、肩をすくめた。
これまでは、だれかにお礼を言ってもらったり感謝してもらったことなどなかった。だから、ちょっとだけ照れ臭い。
肩をすくめたのは、その照れ隠しというわけ。
視線を感じたのでそちらを見ると、チャーリーのやさしい笑顔が目に飛び込んできた。
キラキラ光る美貌に浮かぶそのやさしい笑みは、なぜか胸をざわめかせた。というよりか、心臓が飛び跳ねるような感覚に襲われた。
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