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チャーリーと街に遊びに行く 2
ターキーレッグとサラダ、それから赤葡萄酒である。赤葡萄酒は、グラスデキャンタでシェアすることにした。
葡萄酒もここに来てから初めて飲んだことはいうまでもない。
聖職者はわずかな葡萄酒を飲むことはあるけれど、「大聖母」はイメージにそぐわないのでダメだった。
だから、まだ慣れていない。自分がどれだけ飲めるかもわからないし、そもそもどういうふうに飲めばいいのかもわかっていない。
だから、チャーリーに教えてもらいながら試している。というか、勉強している。
今日の赤葡萄酒は、アディントン王国でも南方にある葡萄の名産のものらしい。
彼は「コクがある」と言って飲んでいるけれど、正直なところわたしには味というか味わいというかがわからない。
(いつかわかるようになるのかしら?)
わかるようになればいいのに。
それはともかく、お腹いっぱいになるまでターキーレッグと赤葡萄酒を楽しんだ。
王宮への帰路もきたときと同じで馬車である。とはいえ、街馬車をつかまえ銅貨を渡して乗せてもらっている。
王子と王子妃のお忍びだから、というわけではない。
第五王子とその王子妃がどこかにでかけるからといって、わざわざおおげさに送り迎えしてくれないというわけ。
というよりか、わたしたちは他の王子や王子妃たちとは違う。
「どうでもいい存在」というのかしら。
だから、護衛に騎士や近衛隊や親衛隊がくっついてくることもない。
まぁその方がずっと気楽だから、わたしとしてはいいのだけれど。
しかし、チャーリーのことが気の毒でならない。
同じ王子なのに扱いがぞんざいすぎるのではないかしら。
帰りの馬車でそんなことを考えていると、急激に眠くなってきた。
「ラン、もたれたらいいよ。眠るといい」
チャーリーが言ってくれたので、素直に彼の肩にもたれた。
彼の見た目よりずっと立派な肩のぬくもりを感じつつ、ふと思った。
こんなにしあわせでいいの、と。それから、彼を独占していていいの、とも。
彼が愛する人は、きっと寂しい思いをしているに違いない。彼に会いたいと切望しているに違いない。
そう思うと、不安になってくる。
しょせんわたしは契約妻。いずれ彼は愛するレディといっしょになる。
そのとき、わたしはひとりぼっちになる。
たったひとりで生きていかねばならなくなる。
不安とも焦りともいえぬなにかでたまらない気持ちになりながらも、いまのこのしあわせが続いてくれればいいのにと、ありえない将来に希望を抱いてもしまう。
そうこうしているうちに、彼の手がわたしの肩にまわされた。馬車の心地いい揺れと彼に守られているという安心感があわさり、いつの間にか眠ってしまっていた。
こうして楽しくしあわせな一日が終わった。
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