画策

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画策

 王宮は、いじめやいやがらせが横行している。それは、このアディントン王国にかぎったことではない。祖国ウイルクス帝国の皇宮では、それはもうひどかった。どこの国でも大なり小なり、そういうことが行われているのは仕方のないことかもしれない。  ここでもまた同様で、国王の王妃や側妃が王子たちの正妃や側妃をいじめたりいやがらせをするのはもちろんのこと、侍女や執事たちをいじめたりいやがらせをしている。  個人的には、そういうことはじつにくだらないし大人げないと思う。だけど、みんなそれが支配者たる者の特権だとでも勘違いしているのかもしれない。悪女としては、いっしょになって侍女や執事やその他もろもろの使用人たちをいじめたりいやがらせをし、他の王子の正妃や側妃にも同様にした方がいいにきまっている。  だけど、わたしはあえてそれはしない。だれもがすることをしても、それは悪女のすることではない気がする。だれもがしないこと、異端的なことをすることこそが悪女ではないのかと思っている。  だからこそ、逆の発想で攻めることにした。  つまり、王宮からいじめやいやがらせをなくす運動を開始したのである。  これこそが、王妃や側妃たちにとっては最高のいやがらせになる。  自分で自分のアイデアに、おもわずほくそ笑んでしまった。  すぐに侍女のジャニスとカイラが同調し、参戦してくれた。だから、三人でいじめやいやがらせの現場に遭遇するたびに被害者に助け舟をだした。そして、加害者にその非を説いた。第四王子の正妃パトリシアと彼女の生家から彼女についてきている侍女たちも同調してくれたので、いっしょになって邪魔をしまくった。  そのお蔭で、国王の正妃や側妃を怒り狂わせることが出来た。  彼女たちは、わたしをずいぶんと褒め称えてくれているらしい。  それをいろいろな侍女からきかされ、ますますほくそ笑んでしまった。  これだけ嫌われたら、チャーリーが愛しているレディがわたしにかわってここにやってきたら、かなりいい人に思えるに違いない。  思惑通りに進んでいる。  ホッとすると同時に、複雑な心境にもなっている。  自分でもどうしてそんな心境になるのかは、わからないけれど。  それはともかく、あらかた思惑通りに進んでいるけれど、予想外のことも起こっている。それは、侍女や執事たちがムダに感謝してくれることである。  こちらはそんなつもりはないのに、彼女や彼らはそんなつもりみたいなのである。  それには戸惑った。彼女たちは、助けてもらった、あるいはかばってもらった礼だといって、様々な情報を流してくれるようになった。  まあ、それはそれでありがたいことなのだけれど。だから、ありがたく教えてもらっている。  そんなある日、王妃の侍女からある情報を得た。  王妃や側妃たちが、わたしに大恥をかかそうと画策しているという。  第五王子の正妃として、まだちゃんとしたお披露目をおこなっていないということと、婚儀をとりおこなっていないのが不憫なので、ちょっとした披露宴と舞踏会を行おうとしているのだとか。 「大聖母」として、「祈りの間」にずっとこもっていたわたしは、パーティーや舞踏会に出席したことが一度もない。それどころか、上流階級の人たちの前に出たことすらない。元婚約者である愚かな皇太子に婚約を破棄された例のパーティーが、皮肉にも公式の場に出た最初で最後だった。  それを知った王妃たちは、わたしがマナーやダンスをなにも知らないので大恥をかくと算段しているのかもしれない。  まぁ、それはたしかに当たらずとも遠からずだけれど。  その情報を得た同日の夕食時、チャーリーから国王の伝言をきかされた。  それは、チャーリーとわたしの披露宴と舞踏会を行う為、ぜったいに出席するようにとの内容だった。 「悪意しか感じられないけどね」  チャーリーもつまらない画策に気がついている。 「わたしはかまわないわ。ただ、お願いがあるの」 「なに? 着用するドレスのこと? 開催はまだ先だ。オーダーメイドでも余裕で間に合うはずだ」 「ドレスは、あなたがもともと準備してくれているもので充分よ。ある人を紹介して欲しいの」 「ある人を紹介して欲しい? おれの知っている人だったら、もちろん紹介するけれど……。いったいだれ?」  戸惑い気味の彼に、ある人物の名を告げた。  そうして、これまで以上に忙しい日々が始まった。
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