婚約破棄からの追放

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婚約破棄からの追放

「な、なんだと?」  ()婚約者は、そこそこ美しい顔を真っ赤にした。 「ご心配なく。わたしは、ただの『大聖母』。まやかしにしてお飾りの存在です。そのようなわたしに、あなたや皇族を呪い殺したり破滅させたりという力はございませんので」  地味でジメジメしている顔に、自分では不気味だと思う笑みを浮かべた。  そう言ってのけてから、小柄な体を反転させ、大広間を闊歩し始めた。  周囲だけではない。大広間内にいるパーティーの参加者たちは、一様に唖然としている。  堂々とするのを心がけた。小柄だけれど、悪女らしくムダにえらそぶった歩き方をする。  ふと視線を感じたので、そちらへ視線を向けた。  すると、周囲とは違う輝きを放っている美貌の持ち主がこちらを凝視している。  その輝きは、美しさだけによるものではない。異彩を放っているという表現の方がいいかもしれない。  とにかく、その黄金のオーラが印象的である。  視線が合った。  黄金のオーラの青年は、意味ありげに微笑んだ。  ドキリとした。 「大聖母」を目指す者として、清らかな身であらねばならなかった。当然、婚約者以外の男性に興味を持つとか、ましてや恋愛感情をもってはいけない。  もっとも、わたしは婚約者に対してもどちらもまったく持たなかったけれど。  禁欲、とまではいかなくても、とにかく男性に縁遠かったわたしなのに、なぜかその青年の微笑みに胸を射抜かれた。  そう。まさしく矢で射抜かれた。  とはいえ、それも一瞬のこと。  そのまま歩き続けた。 「なんて失礼なやつだ。追放だ。この皇都から、このウイルクス帝国の皇都から追放だ」  愚か者のヒステリックな叫び声が背中にあたり、砕けて大理石の床に落ちていく。  そうして、わたしのあらたな歴史が始まった。  この日、わたしは人生を否定され、あらたな人生を得た。
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