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お父様にざまぁを 1
チャーリーとわざわざ正門に行き、お父様に会った。
チャーリーは王太子。いままでのように一王子ではない。
一国の王太子が他国に占領された国の公爵に公式に会ったとなると、占領国はいいようには受け取らないはず。
だから、あくまでも非公式に、つまりこっそり会うのである。
門の衛兵たちが休憩したり執務をとる建物、といってもちょっとした家ほどの大きさだけれど、とにかくその一室でお父様と会った。
控えめに言っても、お父様はボロボロの状態だった。一瞬、だれかわからないほど変わり果てていた。
「はやく戻るんだ。戻って二人を救うのだ」
お父様は、わたしの顔を見るなり言った。
二人というのは、お義母様とお義姉様のことらしい。
てっきり愚か者の元婚約者の使いで来たのかと思った。
「ふんっ。あれはもう終わりだ。いまごろ牢獄で飢えているだろうよ。あの愚か者がすべての元凶だ。自滅してくれればよかったものを、クリスタルまで巻き込みおって。そのせいでポーリーンまでつかまってしまった。ラン、おまえこそが愚か者のほんとうの婚約者。おまえが戻れば、クリスタルとポーリーンが釈放される。ほら、さっさとしないか」
開いた口がふさがらなかった。悲しくはない。すでに諦めているから。それでも、情けなさで涙が出そうになった。
これが自分の実の父親だと思うと、みじめに思えてくる。
ちなみに、クリスタルはお義姉様で、ポーリーンはお義母様である。
お父様は、そんなわたしの気持ちはお構いなしに愚か者の元婚約者をなじっている。
どうやら、元婚約者は占領軍につかまる直前まで隠れ家で「ランを連れ戻して占領軍を追いだす魔術を駆使させろ」、とかなんとかわめいていたらしい。「追いだすことに成功したら、愛人くらいにはしてやってもいい」とも。
魔術って、いったいなに?
そんな揚げ足をとるつもりはないし、愚か者の戯言に目くじら立てるつもりもない。
愚かな元婚約者は、つかまると今度はクリスタルにそそのかされ、協定を破ったなどと言いだしたらしい。クリスタルとその母親に。どうしてそんなことを占領軍に主張したのかはわからない。元婚約者は愚かすぎるから、ただ単純にだれかを道連れにしたかったのかもしれない。それを真に受けたわけではないでしょうけれど、占領軍はその証言からお義姉様とお義母様をつかまえ、ともに投獄した。
お父様は彼女たちを救う為、わたしを連れ戻す決心をした。
わたしこそが皇太子の正統な婚約者であり、その婚約者をそそのかして協定を破るよう仕向けた張本人である。だから、二人はすぐに解放してくれ、と差し出し説明しよう。そう決意し、アディントン王国にやって来たのだ。
その執念はすごいと思う。そして、才覚も取り柄もないお父様が、その執念でここまでやって来れたのは奇蹟に近い。褒めてあげたいくらい。だけど、わが身を犠牲にして二人を助け出すならまだしも、勘当した実の娘を生贄に差し出そうだなんてよく考えついたものだと逆に感心してしまう。
「お父様、いえ、ウインザー公爵。くそくらえ、です」
きっぱりすっきりはっきりそう告げた。
マナーの先生であるセルマがきいたら、きっと眉を顰めるに違いない。
「な、なんだと?」
お父様は自分の耳を疑っているみたいだけど、チャーリーや護衛の近衛隊の隊員たちはプッとふきだした。
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