契約結婚 1

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契約結婚 1

 チャーリーは、アディントン王国が所有している屋敷に招いてくれた。  当然、その屋敷までは馬車で移動した。  内心でホッとしたことはいうまでもない。  屋敷の大きさに驚いてしまった。  追いだされてしまったけれど、ウインザー公爵邸よりも広くて豪壮である。  しかも、その屋敷は皇宮により近い皇族の所有地にある。  アディントン王国は、このウイルクス帝国よりはるかに強大である。軍事、政治、経済、文化、そして宗教。どれをとっても帝国の比ではない。  だからこそ、一等地に土地と屋敷を与えられたのである。  屋敷は、平素は外交官やその他の官僚や使者や有力な人物たちの拠点となっている。そして、当然のことながらアディントン王国の王族が来国した際には宿舎として使用される。  見た目だけでなく、庭や屋敷内も豪壮であることは言うまでもない。  使用人の数も多い。  使用人たちは、全員がアディントン王国の人らしい。帝国の人間は、ひとりも雇っていないという。    チャーリーは、まず食事を振る舞ってくれた。  驚くほど豪華ではない。鶏肉のシチューに挽き肉のパイ。ジャガイモや白身魚のフライに野菜たっぷりのサラダ。食後には、アップルパイにバニラアイスを添えたデザートまで出してくれた。 「大聖母」は、食事にも気を使わねばならなかった。というよりか、皇宮では「大聖母」は食べずに祈るものと謎の認識をされていたので、食べ物の類はいっさい出なかった。よくて水が出された程度だった。  そして、ウインザー公爵家では、「大聖母」だからと理由をつけてろくに食事を出してもらえなかった。  使用人や料理人たちは、すっかりお義母(かあ)様やお義姉(ねえ)様に飼いならされている。したがって、こっそり分け与えてくれるということもなかった。それどころか、わたしをなめきっていた。  そういうわけで、振る舞ってもらった料理はシンプルだけど美味しすぎた。おもいっきり堪能した。ドレスが破れてしまうのではないかというほど食べた。  チャーリーは、そんなわたしの様子をただ眺めていた。  驚いたに違いない。いいえ。呆れたに違いない。  食事後、居間に移動した。そして、あらためて彼の話をきいた。 「期間は、あえて定めない。しいて言うなら、きみがこの生活に飽きるか、好きな男性が出来たときまで。もしも嫌になったとか、好きな男性と結婚したいということになったら、そこでこの契約は終了ということだ」 「それなら、あなたに好きな人が出来るとか、あるいは飽きたり嫌になる場合もそうよね?」 「ああ、そうだね。だけど、それはないかな」 「ふう……ん」  その返答に違和感を覚えた。  わたしに好きな男性が出来るかもしれないという可能性があるのなら、当然彼にだってその可能性はあるはずでしょう?
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