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「ま、まあ、まずは、落ち着いて、椅子に座ってください!」
そう言った波瑠の方が、椅子に躓いて、転んでしまった。
渋谷課長が、素早く支えてくれたので良かったが、何せ、臨月の妊婦なのだ。
ちょっとこけただけで、大事になりかねない。
「そ、それで」
波瑠は、椅子に座り直して、訊いた。
「どういうことなんですか? 消防士って」
「ああ。驚いていることだと思う、すまない。身重の君に対してこんなことを言ってしまって……」
渋谷課長は、真剣な表情をして言った。
「つまり、私の生き方の問題なんだ」
「は?」
波瑠は、きょとんとしてしまった。
「い、生き方?」
「ああ。私は、これまで、勉強ばかりして、人を蹴落とすことばかり考えて生きて来た。このまま、県庁のエリートコースに乗って生きていては、きっと、とても悪い人間になってしまう……」
渋谷課長は、結婚前から、自己肯定感が低かった。
高学歴、185センチの高身長、県庁のエリートで高収入……なのに、いつも、自分は悪い人間だと言っていた。
しかし、それがどうして、消防士と結びつくのだ?
波瑠は、不思議に思って訊いた。
「ど、どうして、それが消防士なんですか?」
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