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彼岸で友と
二〇一四年、東南アジア。
ディルサール共和国。首都バルガワン旧市街、午前四時。
軍民共用のバルガワン空港を目前に足止めを食っている、陸軍特科中隊の生き残りを率いるユースフ中尉は静かに軍用無線を切った。
「武器はいつ届くのですか?」
諦めの口調で聞いてきた友人でもある部下のヤクブは、出血と土埃で人相がわからなくなっている。最も、ユースフの顔も大差ないはずだ。
「送金は今まで通りしているが、ディーラーには二ヶ月振り込みが無いそうだ」
「では……」
当初八百人いた中隊の生き残りは五十人を切っており、動ける人数はさらに少ない。
アメリカからの間接的な支援で届くはずの武器の供給が滞って二ヶ月。投下された資金が途中で抜かれることは決して珍しいことではなかったが、問題はそのタイミングが最悪だったことだ。
そして撤退の時期を見誤ったことで退路も断たれ、完全に孤立してしまった。
「夜明けがヤマだろうな。反政府軍も我々の武器が枯渇しかけているのはわかっているだろう」
「中尉」
「何だ」
「最後、どちらが多く敵を倒せるか賭けませんか」
「いいな。負けた方はビールを奢るんだ」
不敵な笑みを浮かべたユースフとヤクブは、がっちりと握手を交わした。
彼岸で戦友と飲むビールは悪くないだろう。
「敵襲!」
曙色の空に、不気味な音と共に白煙を曳いてロケット弾が次々と飛来した。
ユースフは衝撃で吹っ飛ばされながらも、ヤクブの姿を追った。どうやらお互い無事のようだ。
直後、AKM自動小銃を連射しながら反政府軍が押し寄せる。日干しレンガの壁を盾にM4カービンで応射するユースフが最後の弾倉を撃ちきるのと同時に、AKMから放たれた数発の7.62ミリ弾が体を貫いた。
(俺は十人以上殺ったぞ。お前の負けだ)
薄れていく意識の中でユースフは、ヤクブが悔しそうに缶ビールを放る姿を思い浮かべて小さく笑う。
あと二、三人は道連れにできるか……。力の入りにくい手でピンを抜いた手榴弾を握ると、ユースフは止めを刺しに近寄る獲物を待った。
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