疑似餌

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疑似餌

 二〇一四年。東京。 「肝臓を一突き、凶器はワンハンドオープンの折りたたみナイフ。即死に近かったと思います。ガイシャ(被害者)は銃を持っていたのに抵抗も反撃もしていない。犯人は相当な手練れですね」  ナイフが刺さったままの傷口を確認していた鑑識課員に、捜査一課の刑事が頷いた。  不審な乗用車が駐車しているとの通報で臨場した警察が助手席で死亡している女性を発見。助手席の床に落ちた、被害者が所持していたと思われる拳銃も見つかり、状況から殺人事件として鑑識作業が始まっている。トートバッグに入った財布には、現金とカード数枚、コンビニのレシート。  女性の身元は免許証と身分証明書からすぐに割れた。  中島(なかじま) (あけみ)。勤務先は在日米軍やCIAとの関係が噂されている福生市内の特殊法人だった。  だが、管轄する所轄に捜査本部が起つ直前、公安部長の命で事件は刑事部の手を離れ、以降一切の情報は開示されることがなかった。
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