内部告発

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内部告発

 二〇二四年、米軍嘉手納基地。 「胸くそ悪いぜ」  昨年末に新設されたアメリカ国防総省独立捜査局の極東支局で、赴任したばかりの独立捜査官のクリス・ターナーはパソコン画面から目を逸らし呟いた。  十二、三歳にしか見えない、後ろ手に拘束された少女と五十代の白人男性。白人男性が何をするか想像はできたが、実際に目にしたそれは嫌悪感に満ちていた。  内部告発によってもたらされた性的虐待動画。しかも送られたファイルは一つや二つではない。一番古い物は十年前の物だった。  赴任した先々で虐待行為を繰り返しており、被害者はざっと見て五十人以上。ここまで表沙汰にならなかったということは金でもみ消したのだろうが、人数からしても相当な額になるはずだ。ことは性的虐待だけに収まらないかもしれない。  やっかいなことに白人男性は空軍の上級少将(二つ星)であり、下院議員選挙に出馬の噂もあった。  だが、動画はアングルから見ても将校用の居住区で盗撮されたものだ。それが流出したということは、盗聴盗撮やネット監視が専門のN S A(アメリカ国家安全保障局)が無関係ということはあり得ず、おそらくは選挙絡み。CIAも一枚噛んでいるのは間違いない。内部告発にしても、純粋な正義感かは怪しいところだ。  また、少女の調達やもみ消し費用を考慮すると、協力者がいるのは間違いないだろう。  上級少将の赴任地は殆ど、アメリカが間接的に支援していた紛争地帯だ。不自然な金の流れから何か掴めるかもしれない。  まずは十年前から手をつけるか。ターナーはディルサール共和国の資料を検索した。  かつてアフガニスタンでの作戦で千億ドル単位の使途不明金を出し、軍部や国防総省は議会で叩かれていた。そのため、東南アジアへの非正規の資金援助は、CIAが隠れ蓑に使っている日本の特殊法人を経由していたはずだ。日本からの民間支援を間に入れることで、資金の追跡調査が難しくなるからだ。  すぐにヒットしたのは、ディルサール空港奪還間際での政府軍壊滅と、件の特殊法人に勤務していたCIA現地雇いの女性殺害だった。きな臭さを感じ取り報告を上げたターナーに、極東支局長は冷たく告げた。 「軍の面汚しと、加担した者にはこれまでの代償(ツケ)を払ってもらう。O S I(米空軍特別捜査部)に先回りなぞされたら、司法取引で逃げられるからな」 「ウチで逮捕ですか?」 「いや、だ」  暗殺、という言葉がターナーの頭をよぎった。
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