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3 「おい」  カナタが呼びかけてきた。 「『増幅』させたい。バックアップを頼む」 「了解」  応答して、俺は続ける。「部分(パーツ)とレベルは」 「あ?」  カナタの不機嫌な声。 「ンなモン、『全能力解除(Big Five)』に決まってンだろ」 「もうか? 早すぎるだろう。すぐにバテるぞ」 「っせぇ、バカ」  ……おいおい。  ホントに「生理(メンストレーション)」じゃないだろうな、このセンチネルは。機嫌が悪いにもほどがある。 「任務は始まったばかりだぞ、リコシェ。ムダにとばすな」 「だから……っ、こんな任務、とっとと終わらせてぇンだよ。それにデカいビルが多すぎる。シールドなんぞ取っ払わなきゃラチが開かない」  ――まったく、コイツは。 「いいから、オッサン。さっさとしろって、ここ駆け上がりたいんだよ」  俺はカナタの座標を確認する。  目の前にあるのは、トゥン・モハマド・ビン・イスカンダル・ビルディング。通称「ビンビル」だ。  マレー系の財閥が建設した高層ビル。ついこの間まで世界一の高さを誇っていたが先月、中東に建ったビルに抜かれた。  それでもまだ、日本一の高さであることには変わりない。 「リコシェ」  俺はカナタに呼びかける。 「その高度じゃ、感覚範囲がベラボウに広い。五感すべて(Big Five)なら、情報量が膨大になりすぎる。あたりをつけて、もう少し調査範囲をせばめてからにしろ」 「そんなこと言ったってよ、そもそもタワーの事前調査が甘いからだろ? なんだよ、この捜査資料? 出没範囲すらろくに確定出来てねぇし? ホント、いいよなケーサツは。遊んでて給料もらえるなんて」 「何をヤケになってるんだ、お前」  するとカナタが、 「別にこんな高さなんぞ、アンタをかかえて抱き合ってさえいれば、どうってことねぇんだ」と返してくる。  思わず溜息が洩れた。 「悪いが……抱き合うワケにはいかないな」  俺はそう応じる。ごく淡々と。  カナタが黙り込む。
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