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2  カナタが新宿へと向かっている。  その動きをGPSで補足しながら、俺はカナタの「シールド」の中に入っていく。  その行為を「カーテンをめくるようだ」と表現するガイドもいる。  セックスの挿入行為のようだ、とも。  だが、俺の場合は少し違う。  どちらかといえば、「薄皮を剥く」――といった感じだろうか。  ある程度「シールド」を張っていないと、センチネルはとてもではないが、社会で「通常の生活」はできない。  世の中には、彼らの感覚を刺激するものが多すぎる。  音、光、匂い、あらゆることが――  その一方で、シールドを張り巡らせるのは、センチネルにとって精神的な負担でもある。一種の「過集中」のようなものだからだ。  要するに、化け物じみた身体能力を有する一方で、センチネルはとてつもなく不安定な個体だ。だから……。  ヤツらが、疲れ果てる前に「ガイディング」が必要になる。  ガイディングとは、シールドを含めたセンチネルの五感を、「ガイド」が制御することだ。  「ガイド」も、センチネルと同じ。  生まれながらの素質と能力で「そうなる」。  センチネルに対する感応能力(エンパス)読心能力(テレパス)を有する人間が「ガイド」と呼ばれ、センチネルをガイディングする。  センチネルには俺たちガイドが必要で。  けれど、ガイドには、別段センチネルの存在は必要ない。  (タワー)は、センチネルの能力を必要としていて、センチネルが俺たちを必要とする。  だから、ガイドもまた、その「能力」が露見すれば、タワーに管理される。  センチネルは、ガイドに依存するしかない存在だ。  ヤツらは俺たちと絆契約(ボンド)を結びたがる。  「自分だけの」ガイドでいて欲しいと。相性のいいガイドとのボンドは、とてつもなくセンチネルの精神を安定させるらしい。  そしてタワーも、ボンドを望んだ。  センチネルが安定して感覚制御がより高度になるし、能力をよりよく発揮させることができるからだ。  だが「それ」は、ボンドはひどく危うい。  もし万一、ボンドを結んだガイドに「何か」があれば、センチネルは崩壊する。  まず精神が。そして最後は肉体も――  カナタの感覚制御(シールディング)は、今のところ、問題なさそうだ。  ――前回カナタが、ひどい「ゾーニング」を起こしたのは半年前だった。  再発の気配は、相変わらず見えない。ひとまず俺は安堵する。    くだんの新宿の「通り魔」が、「野生化したスピリットアニマル」のしわざだと分かったのは、西側で出た犠牲者の喉笛に「牙の痕」が残されていたからだ。  ――オオカミ。  日本ではとっくに絶滅しているその獣のモノと、ごく酷似した歯形。  オオカミは巨大な生物だ。  そんなモノが昼であれ夜であれ、街をウロついていれば、どうあったって人目につく。目撃証言がないワケがない。  つまりそれは、人の目には見えていないのだ。  そうやって、一般人(ミュート)には、決して見えない獣のしわざだと考えれば――  すべてに説明がついた。  すなわちそれは、センチネルかガイドの「スピリットアニマル」。  肉食獣ならば、センチネルのモノに間違いはなかった。
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