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カナタが新宿へと向かっている。
その動きをGPSで補足しながら、俺はカナタの「シールド」の中に入っていく。
その行為を「カーテンをめくるようだ」と表現するガイドもいる。
セックスの挿入行為のようだ、とも。
だが、俺の場合は少し違う。
どちらかといえば、「薄皮を剥く」――といった感じだろうか。
ある程度「シールド」を張っていないと、センチネルはとてもではないが、社会で「通常の生活」はできない。
世の中には、彼らの感覚を刺激するものが多すぎる。
音、光、匂い、あらゆることが――
その一方で、シールドを張り巡らせるのは、センチネルにとって精神的な負担でもある。一種の「過集中」のようなものだからだ。
要するに、化け物じみた身体能力を有する一方で、センチネルはとてつもなく不安定な個体だ。だから……。
ヤツらが、疲れ果てる前に「ガイディング」が必要になる。
ガイディングとは、シールドを含めたセンチネルの五感を、「ガイド」が制御することだ。
「ガイド」も、センチネルと同じ。
生まれながらの素質と能力で「そうなる」。
センチネルに対する感応能力と読心能力を有する人間が「ガイド」と呼ばれ、センチネルをガイディングする。
センチネルには俺たちガイドが必要で。
けれど、ガイドには、別段センチネルの存在は必要ない。
国は、センチネルの能力を必要としていて、センチネルが俺たちを必要とする。
だから、ガイドもまた、その「能力」が露見すれば、タワーに管理される。
センチネルは、ガイドに依存するしかない存在だ。
ヤツらは俺たちと絆契約を結びたがる。
「自分だけの」ガイドでいて欲しいと。相性のいいガイドとのボンドは、とてつもなくセンチネルの精神を安定させるらしい。
そしてタワーも、ボンドを望んだ。
センチネルが安定して感覚制御がより高度になるし、能力をよりよく発揮させることができるからだ。
だが「それ」は、ボンドはひどく危うい。
もし万一、ボンドを結んだガイドに「何か」があれば、センチネルは崩壊する。
まず精神が。そして最後は肉体も――
カナタの感覚制御は、今のところ、問題なさそうだ。
――前回カナタが、ひどい「ゾーニング」を起こしたのは半年前だった。
再発の気配は、相変わらず見えない。ひとまず俺は安堵する。
くだんの新宿の「通り魔」が、「野生化したスピリットアニマル」のしわざだと分かったのは、西側で出た犠牲者の喉笛に「牙の痕」が残されていたからだ。
――オオカミ。
日本ではとっくに絶滅しているその獣のモノと、ごく酷似した歯形。
オオカミは巨大な生物だ。
そんなモノが昼であれ夜であれ、街をウロついていれば、どうあったって人目につく。目撃証言がないワケがない。
つまりそれは、人の目には見えていないのだ。
そうやって、一般人には、決して見えない獣のしわざだと考えれば――
すべてに説明がついた。
すなわちそれは、センチネルかガイドの「スピリットアニマル」。
肉食獣ならば、センチネルのモノに間違いはなかった。
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