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「おい」
カナタが呼びかけてきた。
「『増幅』させたい。バックアップを頼む」
「了解」
応答して、俺は続ける。「部分とレベルは」
「あ?」
カナタの不機嫌な声。
「ンなモン、『全能力解除』に決まってンだろ」
「もうか? 早すぎるだろう。すぐにバテるぞ」
「っせぇ、バカ」
……おいおい。
ホントに「生理」じゃないだろうな、このセンチネルは。機嫌が悪いにもほどがある。
「任務は始まったばかりだぞ、リコシェ。ムダにとばすな」
「だから……っ、こんな任務、とっとと終わらせてぇンだよ。それにデカいビルが多すぎる。シールドなんぞ取っ払わなきゃラチが開かない」
――まったく、コイツは。
「いいから、オッサン。さっさとしろって、ここ駆け上がりたいんだよ」
俺はカナタの座標を確認する。
目の前にあるのは、トゥン・モハマド・ビン・イスカンダル・ビルディング。通称「ビンビル」だ。
マレー系の財閥が建設した高層ビル。ついこの間まで世界一の高さを誇っていたが先月、中東に建ったビルに抜かれた。
それでもまだ、日本一の高さであることには変わりない。
「リコシェ」
俺はカナタに呼びかける。
「その高度じゃ、感覚範囲がベラボウに広い。五感すべてなら、情報量が膨大になりすぎる。あたりをつけて、もう少し調査範囲をせばめてからにしろ」
「そんなこと言ったってよ、そもそもタワーの事前調査が甘いからだろ? なんだよ、この捜査資料? 出没範囲すらろくに確定出来てねぇし? ホント、いいよなケーサツは。遊んでて給料もらえるなんて」
「何をヤケになってるんだ、お前」
するとカナタが、
「別にこんな高さなんぞ、アンタをかかえて抱き合ってさえいれば、どうってことねぇんだ」と返してくる。
思わず溜息が洩れた。
「悪いが……抱き合うワケにはいかないな」
俺はそう応じる。ごく淡々と。
カナタが黙り込む。
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