1.航路

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* * * 「かった」「い」「く重い金属音」「」と。なるほどねぇ……。 私は拡大鏡を職員室のデスクの端にゴトリと置くと、一人静かにフウゥーと息を吐き出した。 字を読むのに、まだ拡大鏡を使う程の年齢ではないが、致し方なくベテラン教師の方のものをお借りして、その極小の文字で書かれた文章を読破した。長い格闘を終えたような気分だった。 中学校の数学教師の私は、今年は主に二年生を担当している。 昨今は大学入試や入社試験でも、ただ頭に蓄えた規則に従って数式の羅列をするのではなく、学んだ知識を使って考える、いわゆる応用型の「思考力問題」というのが増えつつある。 そんな将来の対策の一環として、私は定期試験のボーナス問題として、そのような思考問題を一問入れておいたのだ。 私が出題した設問は、以下のようなもの- ≪問.「1」「3」「9」という三つの数字と、「たす」「ひく」「かける」「わる」を使って問題を作りなさい。(数字は何度同じものを使ってもよい)≫ 数字も適当に並べて、生徒たちがこの「1」をどう処理するのかなぁなんて、軽い気持ちで出題してみたものの、こんな解答が帰ってくるとは。 他にも設問がある中で、もっと 「アメ玉が9個あります。3人が1つずつ取りました。残りは何個ですか。」 なんてやつで良かったのに。
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