1.航路

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解答を書いてきたのは、私がクラス担任をしている二年二組の(くさ)(なぎ)()(たる)くんだ。 この設問にはやや大きめの解答欄を設けたものの、彼はその中にびっしりと物語文を書きこんできた。裏面の余白まで使って。 「数学(もしくは算数)の問題を作りなさい」と条件付けしなかった私の落ち度か。ワタル氏、学ばせてもらったよ。 この解答だといったい何の科目の問題になるんだ、これは。 しかし、この鬱蒼とした内容……やはり来月の家庭訪問で親御さんにご相談すべき、だろうな。 「1」は「一緒に」とか「精一杯」か……。「3」は「三方」で、ん?「9」は……あぁ「九分九厘」ね。それにしても「bEll」とか、Eだけ大文字の英単語なんて、英語のほうが心配だな、来年高校受験なのに。なんか変に角張ったおかしなブロック体だし。 そう思いながら拡大鏡を借りた先輩教師の机にゴツいレンズを返そうとしたとき、うっかり和足くんの答案を床に落としてしまった。 答案を逆さに拾い上げた私の眼に、例の「bEll」の文字が上下逆さになって飛び込んできた。 「1139」 和足くんは自作の問題の最後をこう結んでいた。 『常識にとらわれるな。人生は公式では解けない大海原。そして人生は答えなき難問だ』 〈了〉
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