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「皆、みんな無事だったか。良かった!これで全員です!全員避難しました!」
部長がそう告げると、救助隊の隊長が無線で本部と連絡を取る。
「-こちら火災現場。只今、最後まで屋内に残っていた職員が全員避難したと責任者より確認致しました。これより建物全体を……」
「まだだ!」
と突然大声を上げた智久を皆が一斉に見る。
「まだ残ってるんです!」
救助隊員が驚いたように部長を振り返る。
「いえ、もうこれで全員です……」
智久は隊員にすがりつきながら、
「違う!まだ、テツオが!職場の仲間が中にいるんです!」
と必死の形相で訴えた。
救助隊の隊長は、天井を支えるテツオの状況を興奮気味に話す、煤まみれの智久の顔を暫くじっと見ていたが、やがて
「わかりました。救助活動班!これより『1名』救助に建物内部へ……」
と隊員に号令した。
その瞬間、凄まじい轟音と共に建物は一気に崩壊した。
瓦解する建物と共に智久の胸に言い知れぬ感情が沸き起こり、「テツオ……黄色な」と呟くその頬を一筋の涙が伝った。
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