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チームを組む他のメンバーの賞賛を浴びる日常など、今ではもう慣れ切ってしまい、雑多に周囲で掻き立てられる生活音と何ら変わるところがなかった。
ガラスのこちら側にいるこの全人類を卓越した存在であるこの私に、この家族たちがどうしてそれを知ることができるだろうか。上目がちに見上げる彼女もこちらの存在に気付いたのか気付いていないのか、何やらじっと意味ありげな視線を送ってくる。
彼女はしばしこちらに視線を送った後、よく聞き取れなかったが何か二、三言の短い言葉を私に向かって発すると、家族たちはそのまま枠の外へと去って行った。
異変が起こったのは、ほんの数日前のことだった。何気ない日常、私にとっては大きな敵組織との大規模な戦闘が予定されているだけの、いつもと何ら変わらぬ日だったと思う。暖かな昼下がり、そいつは突然始まった。
私たちにいつもと同じく何ら変わらぬ優しい笑顔を向けていた太陽は、いきなり溶け出した。
日輪が歪みぼんやりと背景に滲み出したと思ったら、一瞬の眩い閃光を放つと、私たちの母なる太陽はそれっきり元の形を見定めることができない状態となった。
浸み出した白金の光は群青の背景に混ざり合って緑碧にも鈍灰にも見える五色に変化し、文字通り空中に〝溶け出した〟のだ。それは、小学生が美術の図画の時間に使う筆洗いのバケツが、絵筆を突っ込む度に変色する様子を連想させた。
それらの異変と同時に、人々は別の異変をも感じ取っていたようだ。太陽と混ざり合った天空が、僅かずつだが地表に降下しつつあるように思えるのだった。
地球科学的に考えれば地球の大気が対流圏や成層圏で成り立っており、窒素やらアルゴンやらで構成されていることなどは百も承知であり、大気が硬性の物質で形成されている非常な重量を有する物でないことも誰もが判っている。
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