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私も、そして他の奴らも皆判っている。突如上空に現れたあれは、あの槌は〝裁きの鉄槌〟なのだと。
人類は高度な智慧と精神を武器に文明を作り上げ、そして地球の覇権を得た。その時点で私たちは、ある程度の欲求が満たされれば満足するべきだったのではなかったろうか。
自らの欲望に従うのみに「まだ足りない、もっと満たされたい」と空腹に狂える屍鬼のように利を欲してきた、その顛末が招いた結果なのではないだろうか。
私たちは気付く機会を与えられていた。世界各地で起こる竜巻や大洪水、そして大地震などの訓告の数々―。
それらをも無視して利潤を追求してきた挙句、真理の審判が今まさに我々の頭上に下されようとしている。
あと数時間であの燃えたぎる灼熱の鉄槌は空に溶け、私の視界を完全に覆い尽くすことになるだろう。地球は槌によってその光は消え、何も見えなくなるに違いない。そして遂には、都会が放つ弱々しい光によって照らされた天蓋が我々の上の落ちてくるのだ、破滅という審判の瞬間を感じることもなく。
何処へ向かうのかもわからない。ただ得体の知れない強大な恐怖から逃れる為に、その終焉から少しでも遠ざかる為に走るのだ。逃げ場など無い。何処へ逃げても何処へもことを誰もが判っている。
結局何処へ逃れようともそれは確実に訪れる。皆出口のない避難経路をひたすら走る憐れな生き物なのだ。
でも、その必死さを「憐れ」と誰が笑えるだろう。
何処へ逃げても同じだからと、夜が明けてから逃げる支度を始めても、それは果たして同じなのだろうか。
私は踵を返した。そして群衆に交じって走り出した。
明日を頑張るのではなく、頑張った者にしか明日はやって来ないのだから―
〈了〉
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