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「あのね、君には難しくてわからないかもしれないけど……僕はもう生きていても仕方がない人間なんだよ。誰からも必要とされていない、何にも役に立たない人間なんだ。だから……」
男の子は泣きながら叫んだ。
「ウソだ!誰からも必要とされていない人間なんて、いるわけないよ!だって……だって、ボクに言ったじゃないか、お兄ちゃんはエラいエラい学者になりたいんでしょ?いっぱい、いっぱい勉強して、世界一の学者になるんだって、そう約束したじゃないか!」
そして、男の子は、あの重い大きな扉を黙って指さした。
「行こう、みんなが待ってるよ。」
ふと見ると、扉の前に見知った顔が並んでいた。
小学校時代の同級生、僕の弟、それに両親も。父がみんなに声をかけた。
「それじゃ、みんないくぞ、せーの!」
みんなが力をこめて扉を押し始めた。扉はビクともしない。父は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ほら!みんなもっと力を合わせてもう一度!せーの!」
みんな、なんでこんなことするんだ。僕は、その扉に触れることすらせずに逃げたのに。
どうして……?
僕の心の内を見透かしたかのように、小学校時代の同級生が答えた。
「こんなことぐらいお安いご用だって。おまえには、いつも世話になっていたからな。」
「世話って、俺、おまえに何かしてやった覚え、ないぞ。」
「そんなことないさ。おまえ、俺がよく忘れ物してたから、消しゴム貸してくれたり、教科書見せてくれたりしたじゃんか。あれ、結構助かってたぜ。サンキュウ、親友。」
親友。そんなふうに思ったこともなかったよ、お前のこと。そんなふうに思っていてくれたのか。
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