僕と彼女

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言葉を失った僕に、彼女は問いかける。 「あなた、ここにはよく来るの?」 「う、うん、水曜日と日曜日に」 「そうなんだ。だから昨日はいなかったのね」 「君は昨日来てたんだ」 「うん、星がキレイだったから、気に入ってまた来ちゃった。あなた、名前なんていうの?」 「(ひかる)だよ」 「日光の光?」 「うん。君は?」 「私はセイ。星って書くの」 「えっ、星!素敵な名前だね」 「ありがとう。ねぇ、それで見るとどんな感じ?」 彼女の指が僕の双眼鏡を差している。 「見てみる?」 「いいの?」 「どうぞ」 僕の手から双眼鏡を受け取る手がとても細くて、何かの拍子にすぐ折れてしまうのではないかと心配になった。 「うわぁっ!凄い!凄い凄い!すっごく星がたくさん!あっ、今星が流れた!あの星青く光ってる!」 想像以上に興奮している。 その姿が可愛くて僕は思わずプッと吐き出してしまった。 「今笑ったでしよ?」 双眼鏡を覗いていた彼女のくっきりとした大きな目が、僕を直視する。 「ごめん、可愛かったからつい」 「私のこと?」 僕はコクリと頷いた。 彼女の顔がみるみるうちに紅潮していく。 両手で顔を覆い、俯いてしまった。 「初めてよ、初めて言われた」 「そうなの?」 「すっごく嬉しい!」 顔を上げ、微笑む彼女の表情が、夜空に浮かぶ星よりも数百倍輝いて見えた。
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