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春を迎え、僕は高校3年生になった。
彼女も同い年だと言っていたので、大学に進学するならお互い受験生だ。
彼女は将来何になりたいのだろう。今日もきっと来るはずだから訊いてみようかな。でも、教えてくれるだろうか?僕がプライベートなことを質問すると、いつも濁されてしまっていた。
そのうち僕も訊くことをやめてしまい、結局彼女について何も知らないのだ。
でも、彼女にだって夢はあるはずだ。
そんなことを考えながら、僕はいつものように彼女を待っていた。
でも、彼女は来なかった。
その日からずっと彼女は姿を見せていない。
季節は秋を迎え、彼女と出会った冬がやって来る。
彼女はどうして何も言わずに僕の前から姿を消したのだろう。なにか気に触ることでもしてしまったのかな……
寂しさを抱えたまま、僕は学校に向かった。
通学路には大地主、伊集院さんの屋敷がある。
10年ほど前、海外で生活していた息子さん夫婦が帰国し、今も同居している。息子さん夫婦には、僕より3歳年上と2歳年上の兄妹がいるのだが、二人とも大学に進学し、この町にはいない。今は大家主夫婦と、息子さん夫婦が住んでいる。
僕はいつもその家の前を通って学校に行くのだが、その日は屋敷の様子が違っていた。
【忌中】と書かれた札が貼られている。
誰が亡くなったのだろう。大家主のお爺さんかな?
僕は深く考えることもせず屋敷を通り過ぎた。
その日の夜、僕はいつものように双眼鏡を持って星を見にやって来た。
今日はやけに星が輝いて見える。
「キレイだなぁ」
いつもより美しい星に見惚れていると、僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
「光さま」
えっ⁉︎ 光さま?
声の方を振り向くと、喪服を着た50代くらいの紳士が、僕に向かって深く頭を下げた。
つられて僕もお辞儀をする。
紳士は僕に近づき、
「私は、伊集院家に仕えております、倉持と申します。本日は、主人の使いで参りました」
彼は僕の前に、星の絵が描かれた綺麗な封筒を差し出した。
僕が受け取ると、
「それでは、失礼いたします」
彼はそのまま踵を返し、下に降りてしまった。
封は星のシールが貼ってあるだけだったので、
すぐに中身を確認した。
手紙だ。
"光くんへ"
それは、僕宛に書かれた、彼女がずっと秘めていた切実な想いだった。
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