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★★★
なんだよそれ……
悲しみや、悔しさや、自分に対しての怒り、いろんな感情が僕を打ちのめす。
一番許せなかったのは、僕自身も彼女の存在を消してしまっていたということ。
彼女が手紙に記していた通り、僕は、伊集院家の子供は二人だと思っていた。知らなかったでは済まされない、そう思った。
僕も君に謝りたい。顔を見て、ちゃんと謝りたい。
気がつけば、僕は倉持さんを追いかけて、階段を駆け降りていた。
「倉持さん!」
黒塗りの車に乗ろうとしている彼を必死に呼び止め、駆け寄った。
「すみません、あのっ」
彼は動きを止め、ゆっくりと振り返る。
僕の方を向いた倉持さんの目には涙が滲んでいた。
「ひなたさんは……」
「お嬢様は星になられました。この時が来たら、光さまに渡して欲しいとお預かりしていたものを届けに参ったのです。私は執事失格ですね。ご主人様の言いつけを守れそうにありません」
「倉持さん?」
「光さま、お嬢様はこれまで、ご自身の存在を公にはなさいませんでした。自分を消して生きてこられたのです。日中、外を出歩くためには、紫外線を完全にシャットアウトしなければならず、顔も見えないほど全身を覆ってしまわなければなりません。幼い頃、一度、外の世界が見たいと、曇りの日に少しだけ外出したことがありました。ですが、またまた遭遇した子どもに揶揄われてしまったのです。その時かけられた言葉は黒魔術でした。私はいてもたってもいられずその子に話をしようとしましたが、お嬢様に止められたのです。それから一度も外に出ることはありませんでした。『息をしているのに死んでるみたい』ポツリとこぼされたお嬢様の言葉です。そんなお嬢様が、星を近くで見たいとおっしゃってくださいました。お嬢様は体力がございませんので、滞在時間は限られておりましたが、生まれて初めて生命を感じた時間だったのではないでしょうか。光さま、ありがとうございました。お嬢様に笑顔をくださり、心より感謝申し上げます」
倉持さんは深々と頭下げ、黒塗りの車に乗って行ってしまった。
僕は空を見上げる。
本当に君は星になってしまったんだね。
話したいことはまだまだたくさんあったのに。
ごめんね、ごめんね……
僕は泣いた。声を上げて泣いた。
その夜は、もう、星を見ることができなかった。
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