0人が本棚に入れています
本棚に追加
クッキングロボは料理人には勝てない。
様々な分野の自動化が急速に進み、あらゆることがロボットに取って代わった時代であってもこの事実は変わらないと人々には認識されていた。
そこにビジネスチャンスを見出したのが家電メーカーのCF社である。CF社は料理家電で急速に成長を見せている新興企業だ。クッキングロボ市場でも2番手あたりの位置につけていて、クッキングロボ最大手になるチャンスを伺っていた。
CF社の創業者である村井氏が新しいクッキングロボの開発に着手した。テーマは「料理人より美味いクッキングロボット」。そのために開発主任、若手のホープ、研究者などが会議室に集められた。
社長は全員が集まったのを確認すると、皆の注目を集めるように手を叩き、話し始めた。
「君たちが知っているように我々CF社は業界2番手の位置で甘んじている。この現状を打破するために新たなクッキングロボを開発しなければいけない。そのために君たちを集めたのである。」
まばらな拍手が会議室に響く。会議に若手で唯一呼ばれた幸阪は誰よりも拍手していた。同期で自分だけが新商品開発会議に呼ばれた。明らかにこれは自分が期待されていることの現れであり、ここで活躍すれば昇進も間違いなしと踏んでいる。そのためには爪痕を残さねばならないと意気込んでこの会議に臨んでいた。
「今回のテーマは『料理人を越えるクッキングロボ』だ。我々が料理人より美味い料理を出すロボットを開発すれば業界最大手になること間違いなしだ。」
今度はもっと大きな拍手が響いた。開発主任の遠藤は拍手をしながら、億劫な気持ちになっていた。村井氏は生粋のアイデアマンであり、業界2番手までのし上がったのは村井氏のアイデアがあったからであるが、そのアイデアの実現のために割りを食ってきたのは遠藤であった。
「幸阪くん、君はウチの商品を使ってるかね?」
突然の指名に幸阪はたじろいだが、顔に出さず返答した。
「はい!クックCを愛用してます!」
「では料理人とクックC、どっちが美味しい料理を出す?」
「それは…」
「こういうことだ。諸君、我々はここでクックCのほうが美味しい!と言わせなければならないのだ。そういうことでみんなで料理人を越えられるようなアイデアを出してほしい。例えば人の体調とかを観察して献立を考える。こんなのを何個か出してくれ。では。」
そう言うと、村井氏は質問させる間も与えず去ってしまった。会議室がざわざわし始めたところで遠藤が仕切り始めた。
最初のコメントを投稿しよう!