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「契約書があるから、それを見てもらえればわかってもらえると思う……」
晴が言うと男は鼻で笑った。
「契約書? あるわけねえだろ」
男がこうも易々と断言するので、晴は余計に焦った。
あの契約書さえも幻だったのかと再びファンタジーが頭をよぎる。
段ボールの中から書類の入ったファイルを取り出し、さらにページを数枚めくって手を止めた。
「あった……」
ファイルの透明なレフィルに入ったままの状態で、晴は契約書の入ったページを彼に向けた。
「見て、ほら契約書よ」
ファイルの角から男の表情を見た晴はファイルを持つ手に力が入った。
彼は先程よりさらに威圧感を増して自分を睨んでいたからだ。
「あり得ねえ。どうせ偽物だろ」
男はファイルと晴を交互に睨んだ。
「偽物なわけないでしょ!?」
自分に対する敵意を剥き出しにする男に晴は再び恐怖で息を飲んだ。
本能だろうか、契約書を奪われてしまっては何をされるかわからない。そんな危機を感じた晴は開いていたファイルをゆっくりと閉じた。
しかし、それを胸の中に抱え込もうとすると、直前にファイルを取り上げられてしまった。
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