1. これから始まる。

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そんな彼女の字を見つめながら晴はふとある考えが頭をよぎった。 話の流れから、どうやら男は家主のことを知っているようだ。 いろいろな不動産屋がここを狙っていたと言うが、彼こそがその一人なのではないだろうか。 今日も、交渉にやってきたところ、いつの間にか別の人間と賃貸借契約なんてものを交わしていた。 それで彼は焦った。だからこんな滅茶苦茶なことを言い出したのではないだろうか。 晴は(いぶか)しみながら彼に疑いの目を向けた。 しかし、そうなると彼の風貌がしっくりこない。 彼の服装はTシャツにジーパン。そのラフな格好は不動産屋にはとても見えなかった。 彼が不動産屋でないとすると…… ……詐欺師……? 新居に胸を躍らせていると、突然ここの住人だという男が現れた。 引っ越し中の家に上がり込んできて、その賃貸契約は無効で、ここは自分のものだと主張してくる。 普通ならありえない。 しかし、ニュースで見る多くの詐欺事件はありえない事でみんな騙されている。現に晴も随分とパニックになって、自分が交わした契約を疑いかけた。 晴の中に生じていた疑念が確信に変わり始めた。 これは、詐欺だ。 次にどんな手でくるのは読めないが、絶対に騙されるものかと晴は気を引き締めた。
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