1808人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
そんな彼女の字を見つめながら晴はふとある考えが頭をよぎった。
話の流れから、どうやら男は家主のことを知っているようだ。
いろいろな不動産屋がここを狙っていたと言うが、彼こそがその一人なのではないだろうか。
今日も、交渉にやってきたところ、いつの間にか別の人間と賃貸借契約なんてものを交わしていた。
それで彼は焦った。だからこんな滅茶苦茶なことを言い出したのではないだろうか。
晴は訝しみながら彼に疑いの目を向けた。
しかし、そうなると彼の風貌がしっくりこない。
彼の服装はTシャツにジーパン。そのラフな格好は不動産屋にはとても見えなかった。
彼が不動産屋でないとすると……
……詐欺師……?
新居に胸を躍らせていると、突然ここの住人だという男が現れた。
引っ越し中の家に上がり込んできて、その賃貸契約は無効で、ここは自分のものだと主張してくる。
普通ならありえない。
しかし、ニュースで見る多くの詐欺事件はありえない事でみんな騙されている。現に晴も随分とパニックになって、自分が交わした契約を疑いかけた。
晴の中に生じていた疑念が確信に変わり始めた。
これは、詐欺だ。
次にどんな手でくるのは読めないが、絶対に騙されるものかと晴は気を引き締めた。
最初のコメントを投稿しよう!