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「あ、いえ……」
正木の方を見ると、彼も晴へ視線を送り口元でかすかに笑った。すると、今まで窓際の待合のソファから窓の外を見ていた光太郎が二人の元にやってきた。光太郎が二人の間に割って入り、「できた?」と無邪気な笑顔を見せると、女性は顔面を崩した。
「あれあれ、こんな可愛い子がいるんだ? お父ちゃんに似てイケメンだねえ。目はお父ちゃん。鼻と口は……お母ちゃんだね」
女性は光太郎と両脇の正木と晴を見比べるようにして言った。
……どうしよう……
晴は硬い笑顔を浮かべながら俯き掛けたが、光太郎はお父ちゃん、お母ちゃんという言葉が聞き慣れていないのか、話の内容を理解していないようだ。そのことに安堵した後で、晴は女性に向かって口を開いた。
「私たち家族じゃ……」
「はやくかえろー」晴の言葉を掻き消しながら光太郎が晴に飛びついてくる。
「ごめんな、光太郎。帰ろうか」
正木が光太郎の頭を撫で、晴には視線を送った。
「引き留めて悪かったね。じゃあね、バイバイ」
女性が腰を屈めて光太郎に言った。光太郎が大きな声で返事をするのを聞いて、晴は「失礼します」と頭を下げ、片付けをして三人は店を出た。
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