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「混んでるね。時間が来たら俺が入れ替えに来るから」
正木は腕時計を見ながら言った。
「本当にすみません……」
「気にしなくていいよ。車がなかったら大変だしね。俺は光太郎の機嫌もいいし、万々歳だよ」と正木は後部座席で相変わらずはしゃぐ息子を振り返った。
そして、顔を戻しながら「俺もはしゃいでるかな」と笑って車を発進させた。
車が動き出すとモニターでは来る時に見ていたアニメが再開され、光太郎はまたそちらに釘付けになった。それを見計らって晴は口を開いた。
「さっきはすみませんでした」
何が?と正木に問われ、「あの女性に勘違いされて……鼻と口が私に似てるって」と言いながら晴は自分の鼻と口を手のひらで覆った。
「香山さんはよく謝るなぁ。そんなの少しも気にしてないよ。それに……俺は香山さんの鼻も口も好きだから」
「ついでに言うと、目も好きだけど。綺麗な目だよね」と正木が続けて言うので晴は顔を覆った。
「もうやめて下さい……。顔見せられなくなります」
手のひらに顔を埋めながら、晴は今更ながらにこの状況に戸惑い始めた。濡れた布団を前にして勢いでここまで来てしまったが、布団がなんとかなりそうになると、自分も冷静になってくる。
「ごめん、やっぱりはしゃいでるな、俺」
急に鼓動を早めた晴の耳には正木の呟きは届いていなかった。
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